高額増資引受の寄付金課税の妥当性

                 税理士  松田 昭子


 

 当サイト内にも判例研究として紹介している相互タクシー事件では、
DESによる増資引受けが寄付金に該当するか否かが争点となった。
(あきこの事件簿 File.1 「相互タクシー事件に関する一考察」)


判旨では「「債務の株式化」に当たるか否かにかかわらず、・・・」
と述べており、
また、この事例においては一連の取引の異常性が明白であるため、
DESのすべてが寄付金に該当するとされたわけではない。

しかし、DES取引について寄付金課税が容認されたものであり、
その判決に至るまでの解釈もさまざまである。

 ここでは、寄付金の該当性・学説及び取扱いについて確認し、
相互タクシー事件における
増資引受けが寄付金課税として容認されるに至るまでの経緯及び、
その妥当性を研究するものとする。

 

2節 法人税法に規定する寄付金

 

1項 沿革

寄付金の限度超過額の損金不算入制度は、昭和17年創設 
臨時租税措置法(昭和17年法律第56号)改正による。[48]

これは寄付金を利用した節税対策が増加傾向にあり、
国庫の収入増加を図るために必要だったことによる。

そして、昭和21年において、現行制度とほぼ同じ内容となり、[49]

昭和22年に本法に取り入れられた(法9B)。[50]
その後昭和40年法人税法全文改正。[51]
寄付金の意義が明確化された。

ここで、資産の低廉譲渡の場合は、
その時価の額と対価の額の差額等は
贈与として寄付金に含まれると規定されている(法37E、旧基本通達77)。[52]

本来、寄付金とは余剰資産によって行われるものであり、
法人においては、利益処分の性格を強く持っている。
にもかかわらず、この損金算入を認めると、法人税が減少することとなり、
国庫の収入の減少を意味する。

法人税法では、費用性のあるものが損金と認められるべきであり、
利益処分的な内容である寄付金について、
その損金算入に制限を設けるに至ったのである。[53]

 

2項 寄付金の意義

法人の支出した寄付金については、
一定の金額を超える部分については損金算入しない旨が規定されている(法37)。

相互タクシー事件の判決要旨においては、
寄附金もまた法人の純資産の減少ではあるが、
法人が支出した寄附金の金額が無条件で損金となるものとすると、
その寄附金に対応する分だけ
当該法人の納付すべき法人税額が減少し、
その寄附金は国において負担したのと同様な結果になることから、
これを排除することにある」[54]
とされている。
つまり、寄付金を無制限に認めてしまうと、
「一方において歳入(・・)()確実化(・・・)の観点から好ましくないばかりか、
他方で納税者相互間の()負担(・・)()公平性(・・・)が損なわれることとなる」[55]
のである。

法人の支出した寄付金には、事業に関連するものと、そうでないものとが含まれていて、
これを一定の画一的基準によって限度額を定めて、
その限度額の範囲内であれば損金性を認め、
限度額を超える場合には、
その超える部分を否認しようとするのがこの規定の趣旨である。[56]

寄付とは、「公共事業または社寺などに金銭・物品を贈ること。」[57]であり、
つまり、金品を贈与することである。

贈与とは、債務者がその財産を無償で債権者に与える契約、
つまり無償で相手に物や権利を与える行為をいう。
これは、片務契約(当事者の一方が対価的債務を負担しない契約[58]
)の典型である。[59]

そして民法上は、
当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、
相手方が受諾をすることによって、
その効力を生ずるものが贈与であるとされている

他方、本判決では、寄付金について、
「『実質的に』贈与又は無償の供与資産又は経済的利益を
対価なく他に移転する行為であれば足りる。」
とされている。

そして、法人税法では、
「寄付金、拠出金、見舞金いずれの名義をもってするかを問わず、
金銭その他の資産または経済的な利益の贈与又は無償の供与
(広告宣伝費、見本品費、交際費、福利厚生費等を除く)
をした場合におけるその金銭の額、
金銭以外の資産の贈与時または経済的利益の供与時の価額によるもの」
と定められており(法37F)、
「通常の営業経費には属さない」
資産等の贈与又は無償の供与として把握し、
その金額は「その時の価額」すなわち時価によることを明らかにしている。

また、資産等の譲渡時の価額よりも著しく低い価額で行われた場合には、
「実質的に」贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、
寄付金の額に含まれる旨の規定がなされている(法37G)。[60]


以上のことからも、法人税法では寄付金について、
一般に言う「寄付金」の概念よりも広いものとなっている。

法人税法上寄付金については、
「会社の営利活動にとって必要な本来的な必要経費の性格をもつものではなく、
さりとて会社が社会単位として存在する以上は・・・
ある程度の寄付を行うことは必要であり、
その意味では一種の義務的経費の側面」をもち、
いわば、「中間的な経費の性格をもつ」こととなる。[61]

つまり、
「この経費の支出によって、理論的には収入の増加が全く期待されていない」のであるが、
「企業にとっては本来的(・・・・)()事業経費ではない」けれども、
「他面において社会的存在としての企業が活動するうえにおいて
ある範囲までは企業の一種(・・)()義務的(・・・)経費(・・)の性格をもったもの」
とみることができるのである。[62]

法人税法が統一的な損金算入限度額を設けていることについて、
金子宏氏は、
「寄付金が法人の純資産の減少の原因となることは事実であるが、
それが法人の収益を生み出すのに必要な費用といえるかどうかは、
きわめて判定の困難な問題である。」
とし、
「もし、それが法人の事業に関連を有しない場合は、
利益の処分の性質をもつと考えるべきであろう。
しかし、多くの場合、
法人の支出した寄付金のうちどれだけが費用の性質をもち、
どれだけが利益処分の性質をもつかを客観的に判定することが困難であるため」[63]

と、理由づけている。

寄付金課税に関しては、
大淵博義氏は、
「寄付金の無償性(非対価性)から寄付金課税が行われてきた従前の課税事例が、
その対価性の概念の拡大によって
寄付金には含まれないことになる事態が生ずるという理論的齟齬が指摘できる」。
とし、
特にDESについては、新しい寄付金課税の問題として提起している。[64]

 

3項 基本通達による一般的基準

法人がその子会社等を整理する場合の
債務引受や債権放棄等については、
その損失負担等をしなければ、
今後より大きな損失を被ることが社会通念上明らかである等の理由から、

やむを得ずその損失負担をすることを負うこととなったときは、
その損失負担部分は寄付金の額に該当しないものとする、
とされている(基通941)。

つまり、債務引受や債権放棄に経済的合理性があれば
寄付金の損金算入に関する規制を受けないというものである。

この合理性の判断については、
債権放棄について
やむを得ず行われるという必要性があることと、
相当の理由があることが求められ、
必ずしも債務超過の状態を指すのではなく、
その債権放棄は必要最低限のものであり、
それほど必要があるわけでもないのに
過剰支援となる場合には寄付金となると解される。[65]


逆に、実質的に債務超過の状態でなくても、
営業を行うために必要な許可、認可の条件として
法令等で一定の財産的基礎が求められている場合に、
営業の継続ができなくなり、
倒産に至るような場合も、経済的合理性があるとみることができる。[66]

また、法人の有する株式等の取得が、
その企業の支配をするためと認められるときは、
その支配株式等の価額は、
その株式等の価額に
企業支配に係る対価の額を加算した金額とするとされ(基通9-1-15)、
更に増資払込後の株式の評価損に関しては、
株式を有する法人が
その株式の発行法人の増資に係る新株の引受けによる払込をした場合、
仮にその法人が増資の直前において債務超過の状態にあり、
かつ、
その増資後においてなお債務超過の状態が解消していないとしても、
評価損を計上できる事実はないものとする旨が定められている(基通9-1-12)。

相互タクシー事件においては、
B
社に対する債権放棄の法的事実は生じておらず、
債務超過にあるという理由だけで、
その債務免除にも合理的な理由が乏しいため、
債権の評価切下げの要件には該当していなかった。

そこで、B社株を著しく高い価額での取得をし、
その超える部分の金額については、この基本通達を適用し、
企業支配対価の額として取得価額を構成したのである。

 

2節 寄付金の損金性と高額増資引受けの交錯

法人税法上、法人の各事業年度の所得の金額は、
その事業年度の益金の額から、損金の額を控除した金額とする旨を規定している(法22)。

そして、その損金の額に算入すべき金額は、
別段
(・・)
()定め(・・)()ある(・・)もの(・・)()除き(・・)

その事業年度の原価、販売費、一般管理費等の費用
及び資本(・・)()取引(・・)以外(・・)()取引(・・)に係る損失(・・)であり、
一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算する旨
の規定がされている(法22C、傍点、筆者)。

そして、
寄付金については、
その「別段の定め」として、法人税法第37条において、
損金算入の限度について定められている。

    しかし増資引受けは資本等取引に該当し、
法人税法第22条の損金の意義から除外されるものである。

寄付金課税がされるためには、
まず法人税法上の損金であることが必要であるのに、
DES
は損益の問題とならない資本等取引に該当するのであるにもかかわらず、
相互タクシー事件における判決は、これを容認している。

    法人税法上は、損金については、資本等取引に該当するものを除外し、
一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うことを基本としつつも、
種々の政策的・行政的考慮から
「別段の定め」により、その内容に修正を加えている。

そして寄付金については、
企業会計上は費用として取り扱われているものであるが、
法人税法上は、別段の定めとしてその損金算入に限度を設けている(法37)。

ここで、金子宏氏は、法人税法上の損金算入の根拠を以下の3つに分類している。[67]

   (1)一般に公正妥当と認められる会計処理の基準を確認するもの

      たとえば、資産の評価損の損金不算入

   (2)一般に公正妥当と認められる会計処理の基準を基準としつつ、
       画一的な処理の必要から統一的な限度などを設けるもの

      たとえば、減価償却に関する規定。

   (3)租税政策上・経済政策上の理由から、
       一般に公正妥当と認められる会計基準に対する例外。

      たとえば、交際費の損金不算入、寄付金の損金不算入

 

    相互タクシー事件におけるDESが寄付金課税されるに至るには、
そのDES取引が、法人税法上そもそも損金に計上されるものであるものであるのか、
その損金性が問題となる。

本項においては、法人税法上の損金について検討を行い、
本件高額増資引受けに損金性があるか否かについて考察するものとする。

 

(1)一般に公正妥当と認められた会計基準における寄付金

  法人税法上各事業年度の所得計算は
その事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額
とされてある(法22@)。

わが国の税法においては大前提として企業会計原則があるとされている。

一般的建前としては、
「法人税法は、法人決算による企業利益の計算を前提として、
企業決算に示されたところに税法上の修正をなして法人課税所得を計算する」[68]

こととなっている。

従って、この規定はその大前提についての確認規定であると思われる。

会計と税法は別立てで存在し、税法上の権利を確定するのであるが、
基本的なものは会計基準に従われ、
税収の確保のために独自のものを定めたものが、税法である。

企業会計は、企業の財政状態・経営成績の計算を目的としており、
そのため、合理的な予測や蓋然性で足りるが、
法人税法は、不確実なルールは適正とされない。

つまり、会計においては、健全性の保守主義[69]
が妥当であるが、
法人税法においては、
保守主義による歳入の見合わせは考えられない。[70]

したがって、税法は固有概念[71]を設けて、
課税の公平を図り、
公正な税務行政の運営という目的(国税通則法1条)を果たそうとしているのである。

企業会計上の「費用」は、税法上の「損金」とほぼ一致しているが、
課税実務の中で、その内容に一部相違が生じるのである。

そこで、水野氏は法人税法第22条第4項が
「一般に公正妥当と認められた会計基準」に従うこととしていることについて、
224項は、今日では、法人税の所得の手順を定めたものと解すべきではないか」
と述べ、所得計算の基礎となる手順を定めた訓示[72]
規定であると位置づけている。[73]

寄付金については、
「企業会計では、費用として扱われるべきものであるが、
(法人税法上は、 筆者)その事業遂行上との関連性や必要性等が明らかでなければならない。」。[74]

そして、法人税法上は、
法人が支出する寄付金については、
「別段の定め」によりその損金算入に限度が設けられることになり、
寄付金の損金算入の限度について規定がされているのである。

 

(2)資本等取引と損益取引の区別と寄付金

  法人税法上の益金・損金は、法人税法上独自の概念であり、
法人の純資産の増減はすべて益金・損金の増減に反映するとみられている。[75]

DESについては、当事者同士が資本等取引を行おうとするものである。

つまり、損益を生じることによる課税の発生や配当による資金の社外流出を防ぎつつ、
事業再建を円滑に行おうとしていると考えられる。


ここに、資本等取引とは、
法人の資本金等の額の増加または減少を生ずる取引と、
法人が行う利益または剰余金の分配及び残余財産の分配または引渡しをいう(法22D)。

このうち金子宏氏は、前者を狭義の資本等取引として、
「企業会計原則は、資本維持の要請から、資本取引と損益取引を厳格に区別し、
企業の利益と損失は損益取引のみから生じ、資本取引からは生じない」
[76]
としている。

法人税法において資本金等の額とは、
資本金等の額は、
法人が「株主等から出資を受けた金額」とし(法
2O)、
利益積立金の額は、
「所得の金額」のうち、「留保している金額」
つまり、法人が得た利益のうち、企業内部に留保される金額(法2Q)として、明確に区分し、
その細目については、政令で定めている(令8)。

言い換えると、株主により払込まれたものが「資本金等の額」となり、
会社が稼いだものが「利益積立金」となり、
これは、平成18年の税制改正で整備されたものである。[77]

法人税法が、
「資本等取引」の定義を明らかにする理由は、
資本等取引以外の取引にかかわる収益または費用及び損失が、
法人税法上の益金の額または損金とされるからであり、
資本等取引によって生ずる収益または費用及び損失の額は、
課税所得の計算上益金の額及び損金には算入されず、
その意味では資本等取引は
法人税の課税所得の範囲を規定する機能を有している。[78]


「法人税は、所得に対して課税することを目的とする以上、
資本に課税されることは予定されていない。
したがって、資本取引とは何かを明らかにしておく必要が生ずる」[79]のである。

また、会社法においては、
会計の原則は、
公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする(会431)とした上で、
資本金等の金額について、
設立又は株式の発行に際して
株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。」
と規定し(会445@)、

株主が払い込み等をした金額のうち、
資本金に計上しないこととした額は
資本準備金として計上しなければならない(会445B)旨を定めている。

法人税法においては、これら企業会計原則と会社法を前提として、
資本等取引による収益と損失を益金および損金の範囲から除外している。[80]

このことから、
DES
は資本金等の増減取引であり
資本等取引に該当することとなる。

そして、これを法人税法第22条に照らし合わせると、
法人税法上の損金には該当せず、
「別段の定め」である寄付金の判断にまで及ばないことになる。

それ故に、渡辺充氏は
「子会社側は資本取引として有効に成立し、
親会社も実際の株式の取得であり、寄付金の概念が及ばない」
と述べている。[81]

山本守行氏は、法人税の資本等取引の範囲が限定されることについて、
「法人税は、法人を通じてその資本主に課税するものであるという考え方にあるから、
拠出資本以外の純資産の増加は、
資本主の持ち分を増加させることになり、
この段階で課税する必要がある」[82]
として、
法人税の課税の仕組みにその由来をもってきている。

すなわち
「拠出資本以外の純資産の増加は、
資本主(である出資者や株主 筆者)の持ち分を増加させることになり、
この段階で課税する必要がある」[83]とし、
これはつまり、
法人を通じてその出資者や株主に課税するという考え方が
法人税の課税のあり方であることを意味する。

つまり、資本主の持ち分を増加させないのであれば、
資本等取引に該当することとなり、
DES
はまさに資本等取引に該当することとなる。

これは、判旨にある「Bが本件増資払込金の全額を資本勘定に組み入れたことと、
原告にとって損失(寄附金)が発生するとすることとは、
何ら矛盾するものではない」
という解釈と相違が生じている。

判旨においては、
相手方の処理方法如何によっては判断していないのである。

金子氏は、DESについては、一種の資本等取引ではあるが、
「(1)債務者の業績が悪化し、金銭債権が不良債権化している場合に、
債務者の再建を支援するために行われることが多いこと、
(2)会社法が、現物出資財産の価額について、原則として、検査役の調査を必要としており、
金銭債権のうち弁済期未到来の金銭債権については、
最終的には裁判所が決定することとしていること(会社20795号括弧内)、
(3)券面額説をとると既存株主に損害を与えること、
(4)時価を超える金額で受け入れた場合には、役員の責任問題が生じうること」
[84]
に鑑み、「どちらかといえば評価額説が妥当」[85]であるとし、
その取引により損益が計上されることを肯定している。

ここで、金子氏は、DESについては、
「資本等取引と損益取引の混合取引(仮にこのように命名しておく)であるから、
損益取引の要素から損益が生ずると解しておきたい。」[86]

と述べており、
DES
が寄付金課税の対象となり得る可能性を示唆している。

これは、
「Bが本件増資払込金の全額を資本勘定に組み入れたことと、
原告にとって損失(寄附金)が発生するとすることとは、何ら矛盾するものではない」
という
判旨に酷似した解釈である。

しかし、法人税法第22条の規定にあるとおり
損金の額に算入すべき金額は損益取引に係るものであり、
「明文規定がない限り、私法上は資本取引に該当するものを、
税法上は損益取引であるとすることはできない」[87]

という解釈もあり、
これは、「租税法は、種々の経済活動ないし経済現象を課税の対象としているが、
それらの活動ないし現象は、
第一次的には私法によって規律されている」[88]
という考えに基づくものである。

X社はB株を直ちに譲渡し、
その譲渡損が計上されることは明らかであった。

確かに、品川氏の述べるとおり、
その異常性から法人税法第132条にいう行為計算否認規定を適用し
寄付金認定することも考えられる。 

しかし、そもそも品川氏は
DES
については「資本等取引」であるととらえており、
金子氏については、
DES
については既述のとおり「資本等取引と損益取引の混合取引」である
ととらえている。

また、判旨においては、
資本等取引に該当するか否かと、寄付金に該当するかについては関係がない
と判断していると考えられる。

確かに、その取引がどのような意図をもってされたかについては、
相手方の処理方法の如何によって左右されるものではないと思われる。

資本等取引に該当してしまうと、
そもそも法人税法第22条の適用はなくなり、
別段の定めとしての寄付金の損金算入限度の規定の問題とならなくなってしまう。

故に品川氏は、
「異常性が明白」ということを根拠に法人税法第132条を適用し、
法人税法第37条の適法性を示し、
金子氏はDESについては、
単なる資本等取引ではなく、「混合取引」と仮に呼び、
損金性の可能性を広げ、法人税法第37条の適用の合理性を示している。

 

3節 取得株式の対価性と寄付金との関係

 第1項 寄付金の一般的概念

相互タクシー事件においては、
B
株の対価性についてが
寄付金課税の妥当性についての争点の一つとなっており、
判例評釈においても議論されている部分である。

これは、寄付金についての一般的な概念が関係していると思われる。

寄付金の意義・範囲については、ほぼ一致した見解として、
(1)事業に関係なく支出される金銭の贈与とする考え方、
(2)事業に関連した支出が、法人税法上の寄付金の損金算入制度の対象となるものであり、
事業に関連性のない寄付金は
利益処分による寄付金としてすべて損金の額に算入されないとする考え方、
(3)事業関連性の有無を問わず、
直接的な対価を伴わない支出を、寄付金の損金算入限度の対象とする考え方
の、3つに分類される。
(以下、大淵氏の文言を引用し、
(1)を「非事業関連説」、(2)を「事業関連説」、(3)を「非対価説」という」。)[89]

本項においては、まずこれらの内容を確認し、
高額増資引受けをした際の取得株式の対価性について考察するものとする。

 

【寄付金に関する学説(筆者にて要約)】[90]

(1)非事業関連説

寄付金について、
事業に関係なく支出される金銭の贈与であるとする考え方である。

ここでは、事業に関連するものであるなら寄付金には該当しない。

大淵氏は寄付金の態様を一般的に、
@公共的・公益的なものや、政治献金・神社仏閣に対する寄付、
A子会社等に対する無利息貸付け等である事業活動に関連した寄付、
B同一役員である法人間等による事業に無関係な寄付の3つに類型化したうえで、
@とBを寄付金に該当し法人税法第37条により損金算入に限度があり、
Aについては寄付金以外の損金とされることを、非事業関連説の前提としている。

しかし、大淵氏は、事業関連支出がすべて損金とされることについては、
判例・学説ともに少数説であると述べている。[91]

神戸地裁昭和38116日判決[92]では、
その判旨において、
「「寄付金」とは、法人が相手方に対し、直接法人の事業と関係なく、
かつ、対価の授受なく無償で贈与した金額その外の財産的給付をいい、
法人がその所有する財産を著しく低い価額で譲渡した場合で、
かつ相手方に贈与するためにこれを行ったものと認められる場合、
その差額を本条にいう「寄付金」として取り扱うことは、
本条を拡大解釈したものということはできない」[93]旨を述べており、
この説を容認していると考えられる。

(2)事業関連説

寄付金について、
事業に関連したものが寄付金の損金算入限度の対象であり、
事業に関連性のないものは、利益処分による寄付金として損金の額に算入されず、
すべて課税の対象となるという考え方である。

この説によると、事業関連性のある子会社支援等の支出は、
寄付金の損金算入限度の対象とされる。

しかし、事業関連性の有無の認定は困難であるため、
この説によることも難しいと思われる。[94]


課税庁側の伝統的な考え方としては、
「たとえ親子会社間といえども
それぞれ別個独立の法人として課税関係を律することになっているから」、
この程度の理由では
「事業遂行上の経費として正当化することはできない」
というものであるが、
「親子会社の実態、
子会社の経営に関連して発生した様々な法的、道徳的諸問題に対する
親会社の社会的責任といったものを考慮すると、
このような原則論だけですべてが割り切れるというものではないし、
また、企業の実情に即さない面があることも否定できない」[95]
という解釈がある。

この説については、松沢智氏が、
「(法人税法第22条第3項に規定する損金の額に算入される金額は、 筆者)
何らかの形でその事業の収益に関連をもって対応する費用である。
このように所得金額の算出の基本である法人税法22条に戻って考えると、
寄付金の損金算入、不算入の判断を法人税法37条の規定のみに委ねるのは、
判断の過程においては、
企業の簿記上の判定という面に傾倒しすぎることとになり、
結果としては、本来、利益処分とするべき支出の一部までも
損金として認めることとなる危険があり、
同条に対する過重な負担である」[96]

とし、このように考えると、
「寄付金についても事業関連性の判断は、
法人税法223項であり、
事業に全く関連しない寄付金は、法人税法371項に該当し、
事業に関連のある寄付金は、同条2項に該当するとするのが相当である」[97]
として、法人税法第37条第2項は、
事業に関連のある寄付金について定めたものであると解している。

(2)非対価説

寄付金について、
事業関連性の有無を問わず、直接的な対価を伴わない支出とする考え方である。[98]


ここでは、何をもって「対価」というのかが、議論されるところであり、
本件判旨でもこの部分について見解が述べられているのであるが、
少なくとも、子会社支援等による任意の資金援助は、
対価的利益の享受には該当しないと考えられている。[99]

つまり、取引先などに対する義務的に出損する費用とは異なり、
任意的な支出を「寄付金」として、
その損金算入に限度を加えると考えられる。

八ツ尾順一氏は、
「この説の基底には、贈与、無償供与による経済的価値の給付は、
事業関連性、必要経費性が希薄であるか、
または明白でないという認識がある」[100]としている。

つまり、経済的利益の供与があった場合、
それが必要不可避な経費であるか否か、
事業に関連があるか否かといった判断が曖昧であることが多いため、
民法にいう片務契約の考え方に近づけた判断基準をとっている。

 

以上のような三つの説が一般的であるが、
寄付金の限度額計算の対象となるものには、
「法人の業務に全く関係ないもの」[101]
と、
「法人の業務遂行上必要であるかどうかが明らかでないものが含まれる」ことになり、
事業性という基準において、
法人税法上の損金性の判断は困難である。

「法人が拠出する金銭等の事業関連性の有無や経費性の認定の困難性から、
画一的な基準でその費用性を擬制するという
寄付金課税制度の創設根拠とも抵触し、
しかも、資産等の贈与を事業に関連する贈与に限定して
寄付金と解する分離解釈が困難であるばかりでなく、
事業に関連性のない贈与を
利益処分による出損と同一視して
損金不算入と認定する具体的根拠が存在しない」[102]ため、
非事業関連説、事業関連説については、
その事業に関連するか否かの認定が困難である。

また、法人税の場合は、
所得税のように家事関連費用といった問題が生じないのであるから、
「業務との関連性を強く求める必要がない」という事情があり、
法人税法上は、損金の意義について
「資本等取引以外のもの」という限定のみにとどまっている。[103]

故に、寄付金の概念をこの二つによることは難しいと思われる。

相互タクシー事件についても、
その判旨において寄付金の該当性を判断するに当たり、
対価の有無について、大きく採り上げており、
寄付金の概念について、
対価説による対価性の有無の判断に重点を置いているものと思われる。

 

2項 対価の有無と寄付金

寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、
内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与
(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに
交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。次項において同じ。)
をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額
又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとされている。(法37F)

相互タクシー事件では、
金銭出資によりB株を取得しているのであるが、
無価値に近い状態であったB株が、
果たして金銭出資に値する対価であったといえるかが問題となっている。

実際、52,900千円で取得したにもかかわらず、
増資直後に譲渡した際には、158千円で譲渡されており、
この金額こそが、B株の本来の価値といえる。

すなわちこれが、松沢氏のいう
「一般的な客観的交換価値」[104]
であり、
「不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価格」[105]
である。

類似判例であるスリーエス事件においても、
「株式を取得する際には
そのような背景事情を捨象した株式自体の価値に着目して対価を決定するのが、
税法の想定する通常の経済人を基準とした合理性のある行為と考えるべきである」[106]

と判示しており、
譲渡価額はここにいう、「背景事情を捨象した株式自体の価値」といえる。

そうすると、低額譲渡に該当することになるのであるが、
この場合は無償譲渡と異なり、単純に贈与意思ありと判断することは出来ない。[107]

このような場合の判断基準は、
「「実質的に贈与した」と認められるかどうか」[108]であるといえよう。

法人税法第378項においては、
低額譲渡等について
税法固有の寄付金概念を創設したとみることもできるが、
北野氏は、
「一般には私法上の混合契約(例えば低額売買と低額分の贈与)」として、
「贈与部分について寄付金とすることを確認するものにすぎない」
という見解がを示している。[109]

このように、高額増資引受けにおいて取得した株式が無価値(0円)であるか、
あるいは、たとえ1円でも時価有りであるかの解釈如何によっても、
その贈与性というものの解釈が変わってくることとなる。

相互タクシー事件では、その判示事項において、
B
株についてはその価値は0円であるとしている。

つまり、これはB社が増資によって債務超過を減少させたにとどまり、
純資産を増加したことにはならないということである。

すなわち、判示では、対価なし、言い換えると、
経済的利益の無償の供与であると判断しているのである。

金子宏氏は、
「「無償」とは、
対価またはそれに相当する金銭等の流入を伴わないことを意味していると解すべき」[110]

とした上で、
相互タクシー事件について
新株の時価に比して著しく過大な増資払込金について寄付金に含まれると、述べている。

しかし、金子氏は、
「債権の回収が不能であるためこれを放棄する場合、
損失を負担しなければより大きな損失を被ることが明らかであるため、
やむをえず負担を行う場合等、
その経済的利益の供与につき経済取引として
十分に首肯しうる合理的理由がある場合には、
経済的利益の供与は寄付金にはあたらないと解すべきである」
としている。

反面、「回収不能が最初から予知されていた場合には、
貸付けには経済的合理性が認められず、
当該貸付金は寄付金に該当すべきと解すべき」[111]
である
としている。

ここからは、無償とは対価性が無いことを意味し、
その取引価値
(ここではB株の価額)が如何程であったかではなく、
回収不能であることを予見して行われたのであれば、
その無償による経済的利益の供与は、
合理性のある取引とは見ることができず、
寄付金とするべきであるとしており、
その取引自体の経済的合理性の有無から、
寄付金課税の該当性について判断していると考えられる。

また、品川芳宣氏は、
その取引自体は形式的には資本等取引に該当し、
取得価額も払込んだ金額と
その取得に要した費用とする規定にのっとっているのだから、
寄付金に該当するかの判断については、
その増資払込みをしたことが、
「金銭等の「贈与又は無償の供与」に当たるか否かが問題となる」
旨を指摘している。[112]

品川氏はこの件について、
本件は「その異常性が明白」であることから、
「本件増資払込金の一部が寄付金であると認定することもできようし、
法人税法132条を適用して、
本件株式の取得価額を減額(寄付金)すべきであるとも考えられる
(この点、本判決は直接触れていない。)」
[113]
と、本判決の寄付金認定について、
肯定的な意見を述べているのであるが、
その寄付金の該当性、
つまり著しく高い価格による増資引受けに異常性が明白であった場合には、
赤字会社の増資引受けにおいて贈与性を全く否定しがたいところ、
本件のような異常でかつ見え透いた利益操作が行われている場合」には、
「本件増資払込金の損金性を否定することはできないであろう」としている。

本判決においては、対価の有無について、
親会社が債務超過の子会社の増資を引き受け、
時価を超える払込みをした場合に、
そのような増資払込みにも経済的合理性が認められ、
時価と払込金額の差額を
企業支配の対価ととらえることができる場合があることを前提として規定されたもの
と解され、
増資会社が
債務超過である場合の増資払込みは
およそすべて寄附金となり得ないことを明らかにしたものではない
というべきである。」と判示している。  

当時は額面金額・発行価額という概念が存在していたが、
現在は、額面金額制度が廃止されすべて無額面株式になり、
また、債務超過となっている会社が資本金を維持しているというのも
決算上の数字であるのだから、
債務超過の場合の株式時価はないとしても良いのではないかという解釈もある。[114]

B株が対価となるか否かのB株の価値、
すなわち金銭出資することによりX社が得る権利の、
経済的価値の算定方法については、
このように種々の解釈が存在する。

何をもって対価というのかは、議論されるところであるのだが、
少なくとも相互タクシー事件のような子会社支援等による任意

の資金援助であり、しかも損失を計上することが見込まれている場合には、
対価的利益の享受に該当しないといえる。

つまり、非対価説に基づく寄付金に該当すると筆者は考える。

 

3項 企業支配対価の額と寄付金

通常の価額に比して著しく乖離した金額での取引については、
例えば相続税法第7条(昭和25331日法律第73号)では、
「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、
当該財産の譲渡があつた時において、
当該財産の譲渡を受けた者が、
当該対価と当該譲渡があつた時における当該財産の時価
(当該財産の評価について第三章に特別の定めがある場合には、
その規定により評価した価額)
との差額に相当する金額を
当該財産を譲渡した者から贈与
(当該財産の譲渡が遺言によりなされた場合には、遺贈)
により取得したものとみなす。」
とされている。

この部分と比較して考えても、
相互タクシー事件における高額増資引受けには贈与性があったと考えられる。

法人税法上、有価証券の取得価額は
その取得に要した価額(令119C)とされているが、
例えば本件とは逆の場合であるが、
通常要する価額よりも低い価額(通常よりも有利な価額)で取得する場合には、
その通常要する価額をもって取得する旨の定めがある(令119C)。

ここに、「通常要する価額に比して低い価額」とは、
「社会通念上相当と認められる価額を下回る価額」をいう(基通2-3-7)。

この内容の解釈としては、
有価証券の取得価額は、
社会通念上相当と認められる金額とすべきである。
そして、その差額が「寄付金」に該当することとなろう。
社会通念上相当と認められる価額、という部分については
曖昧さが生ずる表現ではあるが、
「独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる」[115]
金額
と考えられ、X社は取得後直ちにB株を譲渡しており、
その譲渡価額こそが、
「社会通念上相当と認められる金額」と解することができる。

が、基本通達9-1-15において、
法人が企業支配のために取得した有価証券については、
通常の価額を超える部分については
企業支配に係る対価とする事が認められている。
B
社はX社の子会社であり、
支配関係は劣後株式によりその後も続いていることから、
実質的に価値のないB社に対して払い込みをした金額は
企業支配に係る部分の金額として、
取得価額とされることになる。

しかし、本件の場合、
X
社がB株を取得後直ちに譲渡していることから、
その株式は「売買目的」つまり、
短期的な利得を目的として取得したとも捉えることができ、
これを「企業支配株式」という枠組みに当てはめることについて、
問題があると筆者は考える。
確かに、X社はB社に対する支配は継続しているが、
その取得した株式については、
「支配株式」ととらえることは出来ないであろう。

先に紹介したケンウッド事件では、
赤字子会社に対する増資引き受けによるその株式の取得価額は、
取得に要した価額を企業支配対価の額とされており(基通9-1-15)、
ケンウッド事件においても、
「本件株式は、企業支配株式に該当するもの」と判示している。

しかし、相互タクシー事件については、
「親会社が赤字の子会社に対して増資払込みをすることについては、
企業支配、経営支援等の必要性からその事情において
やむを得ない場合があることが考えられる」としたうえで
、「親会社が債務超過の子会社の増資を引き受け、
時価を超える払込みをした場合に、
そのような増資払込みにも経済的合理性が認められ、
時価と払込金額の差額を企業支配の対価
ととらえることができる場合があることを
前提として規定されたものと解され」と、判示している。

企業支配というのは、短期的なものではなく、
継続的であることが通常であると考えた場合、
相互タクシー事件のように、取得直後に売却する場合には、
「支配目的」ではなかったと考えることも可能である。

 

第4節 債務免除と寄付金の関係

  相互タクシー事件ではDES後に株式を譲渡することにより、
その債権の評価切下げ、
つまり債務免除による貸倒損失の計上と同様の効果を得た。

  貸倒れとは、
「その有する債権が債務者の支払能力の喪失によって、
回収されうることができないために、
その債権は無価値となること」をいい、
「一般的にいえば、恣意的なものではなく、
やむをえない事情によって、その有する資産が無価値」
となり、
しかも、「事業経営上かかるリスクは何程か存するのであって、
これは事業上の損失」となり、寄付金とは全く異なるものである。

しかし、「相手方が支払い可能である場合に、
その債権を放棄したような場合」においては、
それは、「経済的利益を供与」したことになり、
「税法上の「寄付金」に該当することになる」。[116]


税務における債権放棄と貸倒れの関係は、
その行為の実質に従って課税関係を律しなければならないのは当然のことであり、
債権者が任意により行ったものは、客観的事実にあたらず、
寄付金とみるべきである。[117]

不良債権の償却については、
「現実に貸倒れになる以前の段階において、
貸倒損失を貸倒引当金として計上することも認められる」[118]
が、
引当金の計上が行われていても、
単に損金算入の時期が延期されるだけである。

貸倒引当金の計上の根拠としては、
企業会計上の費用収益対応の所得計算原理[119]

から当然行うべきものとされており、
「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準を尊重する建前から、
法人税法においても、
法人が政令で定める一定の繰入率で計算した金額を
損金経理により貸倒引当金勘定に繰り入れたときは、
その繰り入れた事業年度の所得の金額の計算上、
損金の額に算入することを認める」[120]のである。

企業会計は原則として評価損の計上は不可としながらも、
「債権金額又は取得価額から正常な貸倒見積高を控除した金額とする。」[121]

としている。

これは、保守主義の原則[122]によるものである。

また、会社計算規則において、資産の評価については、
原則、取得原価としているが、
債権については、「
取立不能のおそれのある債権については、
事業年度の末日においてその時に取り立てることができないと見込まれる額を
控除しなければならない(会計規5C)。
」としている。

また、会社法461条において、
「株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、
当該行為がその効力を生ずる日における分配可能価額を超えてはならない」
と規定しており、
このことにより、
会社法は債権者保護を図っていると考えられる。[123]


更に会社計算規則において、資産の評価については、
原則、取得原価としているが、
債権については、「取立不能のおそれのある債権については、
事業年度の末日において
その時に取り立てることができないと見込まれる額を控除しなければならない(会計規5C)。

としている。
これは、評価損を計上せず分配を行った場合は、
本来の利益額よりも大きな利益額をもって配当したこととなり、
債権者の担保財産が不当に社外へ流出することとなる。
つまり、債権の評価損を計上しなかったことにより、
株主代表訴訟[124]
や、
刑事罰が問われることが想定され、
その計上は適正に行われるべきであるとされているものと考えられる。

貸倒引当金は、債権の評価切下げの一方法ではあるが、
単なる課税の先延ばしにすぎないのであるから、
「不良債権の直接償却が行われた場合に
損金算入が著しく制限されているので、
企業は有税償却を行わざるを得ない」。[125]


それ故に、相互タクシー事件でX社は、
無税償却を行うためにDESを利用したのである。

つまり、債権を株式に転換することにより、
貸倒損失を株式譲渡損に転換し、
帳簿価額を嵩上げすることにより課税逃れを図ったのである。[126]

貸倒損失の計上基準について、厳格に制限が加えられている理由は、
判示にもある通り、
債権者が自己の都合によって債務免除の時期や内容を決定することにより、
債権の評価損を計上することを防ぐためである。[127]

そのため、資産の評価損については、
法人税法上は原則として禁止されている(法32)。
更に、法人の有する金銭債権は、評価替えの対象とならない(基通9-1-32

法人のした支出が、
「今後のより大きな損失を回避するための経済的合理的な支出な場合には、
ここでの任意的な支出としての
「金銭その他の資産又は経済的利益の贈与又は無償の供与」には該当しない」[128]

のであるが、
相互タクシー事件については、貸倒損失の要件にあてはまらず、
任意的な資金援助であったといえる。

つまり、支払義務があったものではなく、
いわば「対価性や見返りのない支出」[129]であり、
寄付金の一般概念である非対価説に当てはまることとなる。

このように厳しく規定されている債権の評価切下げを行うためには、
同等の経済的合理性が必要である。

しかし、相互タクシー事件においては、
B
社が単に債務超過の状態にあったというだけで、
貸倒損失と同等の事由は見受けられない。
つまり、DESによる資本等取引であるとみせかけただけで、
最終的には、株式譲渡損という形で損失計上することを目的
とした損益取引に該当し、
かつそれは貸倒損失計上基準である債権放棄の要件も満たしていないことから、
無税償却を意図したものであり、経済的合理性はなかったとして、
X
社からB社に対する寄付金であったとして、
課税もやむを得ないと、筆者は考える。

 

 第5節 検討

 第3章において、
相互タクシー事件を題材に金銭出資による
DESについての寄付金課税の妥当を考察してきたが、
まず第一に筆者は、DESは資本取引と損益取引の混合取引である、
という理由のもと、
「寄付金」とする本件の判旨及び金子氏の意見に賛同する。

 藤田・岡村両氏も述べているが、
類似判例のように増資引受けを
「背景事情を捨象した株式自体の価値に着目して対価を決定すること」が、
合理的な取引であるとされてしまうと、
今後のDESの利用の大きな足かせになると考えられる。
また、DESのすべての取引についてこのような判断基準が示されてしまうと、
基本通達9-1-159-4-2が意味を持たないこととなってしまう。

 寄付金課税の解釈における前提である、
資本等取引と損益取引の区別については、
法人税法上資本等取引に該当するものは、
損金の額に含まれないとの規定があり、
法人の課税所得の計算上、損益取引との明確な区分が必要である。
しかし、資本等取引については、DESのように、損益を構成する可能性を含んだものも存在し、
近年の金融商品の多様化・複雑化の傾向によって、
資本等取引であっても損益を生ずる取引と解釈されるものもあるとすることも
やむを得ないと筆者は考える。

そこで、資本等取引について画一的要件に限定するのではなく、
金子氏のいう「混合取引」や本判示事項にもある解釈方法が必要であると考える。

第二に増資引受けにより取得した株式の対価性の有無に関しては、
DES
の本来の目的が
事業再建とともにキャピタルゲインを得ることであると考えるならば、
将来の回収可能性という部分を考慮して対価性有と考える。

しかし本件のように直後に譲渡し損失計上を図っているのであれば、
回収可能性がはじめから予測されていたものとして、
対価はなかったと解釈すべきであるように思う。

ただし、その際の評価額の算定方法についての判断は困難である。

第三に債務免除と寄付金の関係であるが、
基本通達において「寄付金の額に該当しない」旨の定めがある以上、
原則的にあ寄付金課税がなされないものであると考える。
しかし、この大前提には、
援助をしなければより大きな損失を被ることであり、
ましてや自身の無税償却を目的としていることが明らかな場合には、
寄付金課税をして、本来的な資金援助を目的とする増資引受けとの
整合性・公平性を保つべきであると考える。

寄付金については、
大淵氏も述べている通り、解釈論について学問的な問題点を指摘することができ、
DES
は今後の寄付金課税の新たな課題でもあるといえる。[130]



  
→ DESの法人税法からみた将来性 へ

[48] 内閣印刷局『法令全書昭和176月号』96頁(内閣印刷局,昭和17年)。

[49]  内閣印刷局『法令全書昭和218月号』1頁(内閣印刷局,昭和21年)。

[50]  内閣印刷局『法令全書昭和223月号』15頁(内閣印刷局,昭和22年)。

[51]  内閣印刷局『法令全書昭和403月号』150頁(内閣印刷局,昭和40年)。  

[52]  武田昌輔『DHCコンメンタール法人税法』2556頁(第一法規,平成22年)。

[53] (寄附金の損金不算入)

37条  内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額(次項の規定の適用を受ける寄附金の額を除く。)の合計額のうち、その内国法人の当該事業年度終了の時の資本金等の額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える部分の金額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

[54] 福井地判平成13117日税資第250号順号8815

[55] 武田隆二『法人税法精説』535頁(森山書店,2005年)。

[56]  武田昌輔『DHCコンメンタール法人税法』2555頁(第一法規,平成22年)。

[57] 広辞苑699頁(岩波書店,2011年)。

[58] 尾崎哲夫『はじめての民法』144頁(2009,自由国民社)『法律学小辞典第4版補訂

版』(LOGO VISTA 電子辞典シリーズ 有斐閣)。

[59] 椿寿夫「民法(財産法)25講[第2版3訂版]<有斐閣双書>」(2009,補訂,有斐閣)。

[60] 武田昌輔「DHCコンメンタール法人税法」2571頁(第一法規 平成22年)。

[61] 北野弘久『現代税法講義[四訂版]』103頁(法律文化社,2005年)。

[62] 北野弘久『現代企業税法論』113頁(岩波書店,2004年)。

[63]  金子宏『租税法[第15版]』316頁(弘文堂,平成22年)。

[64]  大淵博義『法人税解釈の検証と実践的展開』485頁(税務経理教会,平成21年)。

[65] 加藤幸人・野田茂樹「債権管理と不良債権処理の税実務」140頁(税務弘報,2010

6月号)。

[66] 田中義幸「子会社・関連会社の損失負担等をする場合」30頁(税務弘報,20115月号)。

[67] 金子宏『租税法(第15版)』276頁(弘文堂, 平成22年)。

[68] 松沢智『租税実体法―法人税法解釈の基本原理―』270頁(中央経済社,昭和55年)。

[69] 企業会計原則 第一 一般原則 [保守主義(安全性)の原則]六。

[70]  水野忠恒『租税法[第5版]』364頁(有斐閣,平成23年)。

[71] 固有概念とは、「他の法分野では用いられておらず、租税法が独自に用いている概念」であり、租税法が用いる概念のひとつである。なお、もう一つの租税法が用いる概念には、借用概念と呼ばれるものがあり、「他の法分野から借用している」という意味で、これを借用概念といい、主として問題になるのは、民商法等の私法からの借用概念である。金子宏『租税法[第15版]』108頁(弘文堂,平成22年)。

[72] 公の機関に義務を課している法令の規定で,これに違反しても,行為の効力には別段の影響がない場合に,その規定を指す法律学上の観念。『法律学小辞典第4版補訂版]』(LOGO VISTA 電子辞典シリーズ 有斐閣)。

[73] 水野忠恒『租税法[第5版]』367頁(有斐閣,2011年)。

[74] 岸田貞夫『判例法人税』192頁(税務経理強化,平成21年度)。

[75] 畠山武道・渡辺充『新版租税法』188頁(青林書院,2000年)。

[76] 金子宏『租税法[第15版]』269頁(弘文堂,平成22年)。

[77] 水野忠恒『租税法[第5版]』』372頁(有斐閣,2011年)。

[78] 武田昌輔『DHCコンメンタール法人税法』1162(1166)頁(第一法規,平成22年)。

[79] 武田昌輔「研究にあたって」1頁「資本等取引 日税研論集第29(1994)」日本税務研究センター,平成6

[80] 金子宏『租税法[第15版]』270頁(弘文堂,平成22年)。

[81] 渡辺充『判例に学ぶ租税法』129頁(税務経理協会,2003年)。

[82] 山本守之『体系法人税法』167頁(税務経理協会,平成15年)。

[83] 山本守之『体系法人税法』167頁(税務経理協会,平成15年)。

[84] 山本守之『体系法人税法』167頁(税務経理協会,平成15年)。

[85] 金子宏『租税法[第15版]』271頁(弘文堂,平成22年)。

[86] 金子宏『租税法[第15版]』270頁(弘文堂,平成22年)。

[87] 小田修司「デット・エクイティ・スワップによる債務消滅益の益金算入」108頁山田次郎ほか『租税法判例実務解説』(信山社,2011年)。

[88] 金子宏『租税法(第15版)』111頁(弘文堂, 平成22年)。

[89] 大淵博義『法人税解釈の検証と実践的展開』494頁(税務経理教会,平成21年)。

[90] 大淵博義『法人税解釈の検証と実践的展開』484頁(税務経理教会,平成21年)。

[91] 大淵博義『法人税解釈の検証と実践的展開』484頁(税務経理教会,平成21年)。

[92] 神戸地判昭和38116日訟月第9巻第2302頁、行集第14巻第122144頁。

[93] 岸田貞夫『判例法人税』193頁(税務経理強化,平成21年度)。

[94]  大淵博義『法人税解釈の検証と実践的展開』486頁(税務経理教会,平成21年)。

[95] 武田昌輔『21世紀を支える税制の論理第3巻 企業課税の理論と課題[二訂版]』397頁(税務経理協会,平成19年)。

[96] 松沢智『租税実体法の解釈と適用―法律的視点からの法人税法の考察―』255頁(中央経済社,平成5年)。

[97] 松沢智『租税実体法の解釈と適用―法律的視点からの法人税法の考察―』255頁(中央経済社,平成5年)。

[98]  大淵博義『法人税解釈の検証と実践的展開』487頁(税務経理教会,平成21年)。

[99]  大淵博義『法人税解釈の検証と実践的展開』497頁(税務経理教会,平成21年)。

[100] 八ツ尾順一『法人税実務問題シリーズ/交際費[第5版]』72頁(中央経済社,2007年)。

[101] 中村利雄「法人税の課税所得計算と企業会計(U)-費用又は損失の損金性-52頁税務大学校15

[102]  大淵博義『法人税解釈の検証と実践的展開』486頁(税務経理教会,平成21年)。

[103] 碓井光明「法人税における損金算入の制限-損金性理論の基礎的考察-290頁金子宏『所得税の研究』(有斐閣,平成3年)。

[104] 内藤和夫「第四章 低額譲渡―法人税法二二条二項と低額譲渡並びに寄付金の関係」松沢智『租税実体法の解釈と適用・2−税法は争えば解釈が発展するー』97頁(中央経済社,平成12年)。

[105] 内藤和夫「第四章 低額譲渡―法人税法二二条二項と低額譲渡並びに寄付金の関係」松沢智『租税実体法の解釈と適用・2−税法は争えば解釈が発展するー』97頁(中央経済社,平成12年)。

[106] 訟月48112785頁、税資249884頁。

[107] 北野氏は実質的に贈与又は無償の供与としたと認められる金額について「当事者に贈与の意思があったか」という点を重要視している。北野弘久『現代企業税法論』116頁(岩波書店,2004年)。

[108] 内藤和夫「第四章 低額譲渡―法人税法二二条二項と低額譲渡並びに寄付金の関係」松沢智『租税実体法の解釈と適用・2−税法は争えば解釈が発展するー』106頁(中央経済社,平成12年)。

[109] 北野弘久『税法学原論[6]189頁(青林書院,1992年)。

[110] 金子宏『租税法(第15版)』318頁(弘文堂, 平成22年)。

[111] 金子宏『租税法(第15版)』319頁(弘文堂, 平成22年)。

[112] 品川芳宣『重要租税判決の実務研究』438頁(大蔵財務協会,平成17年)。

[113] 品川芳宣『重要租税判決の実務研究』438頁(大蔵財務協会,平成17年)。

[114] 林幸一「中小企業再生における疑似DESに係る課税問題」122頁大阪経大論集、第61巻第3,20109

[115] 内藤和夫「第四章 低額譲渡―法人税法二二条二項と低額譲渡並びに寄付金の関係」松沢智『租税実体法の解釈と適用・2−税法は争えば解釈が発展するー』97頁(中央経済社,平成12年)。

[116] 武田昌輔「親子会社間の取引と寄付金」『寄付金』日税研論集17,7頁(日本税務研究センター,)。

[117] 下村慧「貸倒損失の判定をめぐる問題―法人税に関する訴訟事件を素材として」税務大学校

[118] 金子宏ほか『ケースブック租税法(第2版)【弘文堂ケースブックシリーズ】』497頁(弘文堂,平成22年)。

[119] 企業会計原則 第一 一般原則 [保守主義(安全性)の原則]六。

[120] 武田昌輔『DHCコンメンタール法人税法』3182頁(第一法規,平成22年)。

[121] 企業会計原則・第三 貸借対照表原則五C

[122] 企業会計原則 第一 一般原則六 「保守主義(安全性)の原則」。

[123] 高橋裕次郎『新 はじめて学ぶ 会社法』92頁(三修社,2007年)。

[124] 「株主が法定訴訟担当者として会社のために行う責任追及等の訴え。代位訴訟ともいう。会社自身が責任追及等の訴えを提起することは当然できるが,請求・提訴を判断すべき取締役・監査役(⇒会社・取締役間の訴え)等が,同僚意識や自らの責任をも問われかねないことから,それを怠るおそれが高いという理由で認められている。『法律学小辞典第4版補訂版]』(LOGO VISTA 電子辞典シリーズ 有斐閣)。

[125] 中里実『デフレ下の法人課税改革』60頁(有斐閣,2003年)。

[126] 中里実『デフレ下の法人課税改革』84頁(有斐閣,2003年)。

[127] 福井地判平成13117日税資第250号順号8815

[128]  大淵博義『法人税解釈の検証と実践的展開』498頁(税務経理教会,平成21年)。

[129] 瀬戸口有雄『否認を受けないための貸倒損失の税務』92頁(税務研究会出版局,平成18年)

[130] 大淵博義『法人税解釈の検証と実践的展開』487頁(税務経理教会,平成21年)。




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