事件 File.1

相互タクシー事件に関する一考察

                 税理士  松田 昭子


この判例は、
債務者が増資を行い、その増資引受けをした債権者から払い込まれた金銭をもって、
その債権者に債務を返済する方法を用いたものである。

このような手法は、一般的なDESとは異なるが、
新株払込方式のDESと捉えることができ、
疑似DESと呼ばれることもある。

新株払込方式の場合、株式の払込みと債権の弁済がそれぞれ個別に行われるため、
原則として、税務上の問題は生じない。[1]


なお、本件は、平成13年商法改正前のものであり、
額面株式、発行価額というものが存在していた時代で、
その発行価額を超える払込について、
寄付金に該当すると判示とされたものであることを補足しておく。

 

1節 法人税更正処分等取消請求事件

(福井地裁平成13117日判決 控訴棄却上告不受理確定)

 

1項 事実の概要(筆者にて要約)[2]

不動産賃貸・証券投資等を目的とする原告Xは、
複数の法人グループの中心である。
Xのグループ会社(以下、Aグループという)は、
X及びB社〜J社の10社で構成されている。

Aグループはすべて、創始者亡乙が設立・買収したものである。

乙は
、平成3719日死亡し、
その財産は遺言により後継者である訴外甲が相続した。

甲の相続税額は贈与税額控除後で、約196億円。

Xは、Bに対し、平成5129日時点において、
合計942億円の貸付金(以下「本件貸付金」という。)を有していたが、
同日現在におけるBの資産状況は、
帳簿価額で約552億円、時価評価で577億円の債務超過であった。

Xは、平成51124日、甲及び丙(甲の実母)から、
Bの額面普通株式45万株を無償で譲り受けた。

これにより、BX100パーセント子会社となった。

Bは、平成51130日付けで
同社の発行済額面株式総数45万株のすべてを無額面株式に転換し、
さらに、同年124日付けで
Bの発行する無額面株式をすべて額面株式に転換した上、
額面普通株式52900株(以下「本件株式」という。)の新株発行を行い、[3]

Xは、
平成5129日から同月16日までの間に、
1株当たり100万円、
総額529億円でこれをすべて引き受け、同金額を払い込んだ
(以下「本件増資払込み」といい、
これにかかる増資払込金を「本件増資払込金」と、
Bの増資そのものを「本件増資」という。)。

そして、Bは、本件増資払込金のうち1株当たり50円、
総額2645000円を資本金に組み入れ、
その余の1株当たり999950円、
総額52897355000円を資本準備金に組み入れると共に、
本件増資払込金の全額をXに対する債務の弁済にあてた、

Xはこれにより、銀行借入金を返済した。

Xは、同年1220日、
訴外L社に対し、甲と丙から贈与を受けた
Bの額面普通株式45万株及び新株として引き受けた
Bの額面普通株式52900株の合計502900株を、
一株当たり316円、合計158916400円で売却し、
Lは、同日、Xに対し、支払った。

Xは、Bの普通額面株式合計502900株の取得価額は529億円である
(このうち45万株については、無償取得し、52900株については、
529億円で取得した)とし、
これを売買代金158916400円との差額
52741083600円の売却損(以下「本件売却損」という。)が発生した。

Xは劣後株により、Aへの支配は継続している。

   Xは、平成6318日、
訴外Cとの間で、
原告の所有する上場有価証券を代金総額約579億円でCに売却した。

Cは、Xに対し、
右売却代金のうち25000万円を平成6318日に、
57159367686円を
同年97日から同月30日にかけて支払った。

このうち、後者の支払は、同月7日から同月30日にかけて、
Cが額面普通株式の新株を発行し、
これをXが引き受けて払い込んだ増資払込金約571億円が原資であった。

Cは、平成6111日、
甲から、同人が所有するX株式及びD株式を買い受け、
代金合計約569億円のうち、
2億円については同日支払った上、残金については、
甲が支払うべき相続税等の債務をCが引き受けることとし、
平成7年35日に甲の所得税を立替払したが、残金は未払である。

   これに対し、Y税務署長は、Bが増資を行うに際し、
原告が同社に贈与したと認められる普通株式の額面金額を上回る
増資払込金52897255000円を寄付金の額として、
損金算入限度額を超える金額についての損金算入を否認。

   また、X社は平成51220日、
所有するBの株式502900株をL1株当たり316円、
代金総額158916400円で売却し、
Xが本件株式の譲渡原価であるとする529億円との差額を
有価証券売却損として52741083600円としたが、
譲渡にかかる原価は、
次のとおり18085467円であるから、この売却損は発生しないとした。

 

@  甲及び丙からの贈与による取得 45万株    取得価額      0

A  増資払込(額面普通株式のうち額面金額に相当する分)   52900

取得価額  2645000

B  増資払込(劣後株式)110万株                取得価額     5500万円

C  @からBの合計   1602900株       取得価額 57645000

D  譲渡原価 57645000円×502900株÷1602900株=   18085464

 

Y税務署長は、上記のとおり、Xのした有価証券売却損を計上誤りとしたうえで、
有価証券を売却したことによる有価証券売却益
158916400円(売却価額)− 18085464円 = 14083636円)
を課税対象とした。

   これに対して、Xは、金沢国税局長に対して異議を申し立てたが、
棄却されたため、国税不服審判所長に審査請求の申立てをした。
しかしこれも棄却されたため、Xはこれを不服として出訴。

 

  【判決の流れ】

   (第一審)福井地判平成13117日 請求棄却

   (控訴審)名古屋高判平成14515日 控訴棄却

   (上告審)最判平成141015日 上告棄却、不受理

 

2項 判示事項[4]

  (1)寄付金の該当性

    「寄附金の意義について、
376項(現行法37F、以下同じ。筆者)は
「寄附金、拠出金、見舞金その他『いずれの名義をもってするかを問わず
内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」
と規定しており、
また、同条7項(現行法37G、以下同じ筆者)は、
「『実質的に』贈与又は無償の供与」と規定していることからすると、
同条6項にいう「贈与又は無償の供与」とは、民法上の贈与である必要はなく、
資産又は経済的利益を対価なく他に移転する行為であれば足りるというべきである。

もっとも、右「対価」の有無は、
移転された資産又は経済的利益との金額的な評価、価額のみによって決すべきものではなく、
当該取引に経済取引として十分に首肯し得る合理的理由がある場合には、
実質的に右「対価」はあるというべきである。」

  (2)B株が、平成124日の増資引受けの対価の額といえるかについて

「株式は会社財産に対する割合的持分の性質を有し、株主は会社の純資産を

株式保有割合に応じて間接的に保有するものであるから、
増資会社が債務超過の場合に、
新株を発行しても増資会社の債務超過額を減少させるにとどまるときは、
増資払込金は増資会社の純資産を増加させることにはならず、
したがって、新株式の価格は理論上は0円となる。」

「しかし、本件増資払込みによる現実の出捐があったとしても、
37条の解釈適用上、
本件増資払込金の中に寄附金に当たる部分がある場合には、
当該部分は法人税法上の評価としては
「払い込んだ金額」(法人税法施行令3811
(現行令119@二と同様の規定、以下同じ。筆者)
に当たらないと解される。

本件増資払込金は
本件株式を取得するための増資払込金としての外形を有するものであるが、
後記のとおり、それが実質上寄附金と判断される以上、
原告の行った取引の外形に法人税法上の法的評価が拘束される理由はないから、
法人税法上これを「払い込んだ金額」として、
本件株式の取得価額に当たると解さなければならないものではない。

また、法37条は同法223項にいう
「別段の定め」に当たるから、
商法や企業会計原則上の取扱いにかかわらず適用されるものである。」

「しかし、Bが本件増資払込金の全額を資本勘定に組み入れたことと、
原告にとって損失(寄附金)が発生するとすることとは、
何ら矛盾するものではない上、
原告が会計処理上、本件増資払込金の全額を有価証券勘定に計上したからといって、
右原告の会計処理上の取扱いに法人税法上の法的評価が拘束される理由はない。」

「通達(現行の基本通達、以下「通達」という、筆者。)は、
親会社が赤字の子会社に対して増資払込みをすることについては、
企業支配、経営支援等の必要性からその事情において
やむを得ない場合があることが考えられることなどから、
親会社が債務超過の子会社の増資を引き受け、
時価を超える払込みをした場合に、
そのような増資払込みにも経済的合理性が認められ、
時価と払込金額の差額を
企業支配の対価ととらえることができる場合があることを前提として規定されたものと解され、
増資会社が債務超過である場合の増資払込みは
およそすべて寄附金となり得ないことを明らかにしたものではな
いというべきである。」

「経済取引として十分に首肯し得る合理的理由がある場合はともかく、
そうでない以上、
右通達を理由に直ちに本件増資払込みが寄附金に当たらないということはできない。」

 

(3)本件増資払込みに経済取引として十分に首肯し得る合理的理由があるか否か

「原告がCに上場株式を売却することによって生ずる
有価証券売却益に見合う株式譲渡損を発生させ、
右有価証券売却益に対する
法人税の課税を回避することを目的としたものであることは明らかであり、
本件株式を
額面金額かつ発行価額である一株当たり50円を超える額で引き受けて払い込んだことに、
経済取引として十分に首肯し得る合理性は認められないというべきである。」

「本件増資払込金は、払い込まれた直後である
平成51210日から15日にかけて、
本件貸付金の返済としてBから原告に返戻されていることが認められ、
右本件増資払込とそれに引き続く本件貸付金の処理とを全体的にみれば、
実質的には、原告がBに対して
本件貸付金のうち本件増資払込金のうち150円を超える部分に相当する額を
債務免除したものと考える余地もないではない。」

「この場合、法人の有する貸金等について貸倒れが発生した場合には、
その貸倒れによる損失の額は、
2233号に規定する損失の額に含まれ、
損金の額に算入される(貸倒損失)と解されていることから、
本件増資払込みとそれに引き続く本件貸付金の処理が、
実質的に債務免除による貸倒損失に当たるか否かが問題となる
(なお、貸倒損失には、
@会社更生法等の法的負債整理等による債権の切捨てや債権放棄により、
その貸金等そのものが法律上消滅し、
貸金等の資産価値が消滅した場合及びA法律上債権が存在するが、
その全額が回収不能となり、
貸金等の資産価値が事実上消滅した場合の二つの態様があるが、
本件の場合は、右@と実質的に同視することができるか否かが問題となる。)。

そして、一般に、債務免除による貸倒損失として損金算入が認められるためには、
@債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、
その貸金等の弁済を受けることができないと認められる債権について、
A確定的に債権放棄をすることが必要と解される。
そして、本来、債務免除は無償の経済的利益の供与として寄附金に当たるものであり、
貸倒損失として損金の額に算入されるのはその例外というべきであるから、
本件増資払込みについても、
右各要件が満たされなければ、
貸倒損失として損金に算入することのできる債務免除と実質的に同視することができるとして、
経済取引として十分に首肯し得る合理的理由があると認めることはできないというべきである。」

「本件貸付金の回収可能性について検討するに、
「弁済を受けることができない」場合とは、
@単に債務者の債務超過の状態が相当期間継続したことのみをもって
右回収不能の要件として十分であるとせず、
債務超過が相当期間継続していることによって、
他から融資を受ける見込みもなく到底再起の見通しが立たず、
事業を閉鎖あるいは廃止して休業するに至るなど、
回収不能が客観的に確認できることが要求されているというべきである
(基本通達9-6-11ないし3参照(ママ))。

なぜなら、このように解さないと、
債権者が実際に回収不能になっている部分を超えて、
恣意的に債務免除額を設定することにより、
自己の都合によって債務免除の時期及び内容を決定し、
その結果、
232項(ママ)の禁止する債権の評価損の計上を認めたのと
同様の結果を認めることになるからである。」

「各事実に照らせば、回収不能が客観的に確認できるとは到底いえない。」

「本件増資払込みとそれに引き続く本件貸付金の処理を、
貸倒損失として損金に算入することのできる債務免除と
実質的に同視することはできないというべきである。」

「法律や企業会計原則上の制約に反しない適法な増資払込みであるか否かと、
税法上寄附金に当たるか否かとは次元を異にする問題であるから、
原告の主張は理由がない。

このことは、例えば、
贈与契約が民法その他の法律上適法、有効かつ正当であるからといって
法人税法上寄附金に当たり得ないことになるものではないし、
他方、贈与契約が公序良俗違反等により民法その他の法律上
違法、無効かつ不当なものであっても、
これにより法人が
資産又は経済的利益を対価なく他に移転したものであるということができれば、
法人税法上は寄附金と認めることができる場合があることからも明らかである。」

「本件増資払込みと
それに引き続く本件貸付金の処理が貸倒損失として
損金に算入することのできる債務免除と実質的に同視することはできないものであるから、
原告のいうような「債務の株式化」に当たるか否かにかかわらず、
本件増資払込みにつき経済取引として
十分に首肯し得る合理的理由があると認める余地はないというべきである。」

「本件増資払込みに経済取引として十分に首肯し得る合理的理由があるとは認められない。」

「したがって、
本件増資払込金のうち一株50円を超える部分については、
対価がなく、
「資産又は経済的利益の無償の供与」として、
法37条の寄附金に当たるというべきである。」

 

   第一審である福井地判は上記の内容を判示したうえ棄却、
控訴(名古屋高判平成14515日)も
原審判決をほぼそのまま引用した上で棄却、
その後さらに上告されたが棄却・不受理となっている
(最判平成141015日)。

 

 第3項 裁判所の判断と判例評釈との異同点

 (1)裁判所の判断

    「贈与又は無償の供与」とは、民法上の贈与である必要はなく、
資産又は経済的利益を対価なく
他に移転する行為であれば足りるというべきであるが、
「対価」の有無は、
移転された資産又は経済的利益との金額的な評価、価額のみによって決するべきものではなく、
当該取引に経済取引として
十分に首肯し得る合理的理由がある場合には、
実質的に右「対価」はあるというべきである。[5]


よって、本件における増資引受けには
経済取引として十分に首肯し得る合理的理由がなく、
対価無しの取引であるので、株式を取得するために払い込んだ金額のうち、
額面金額かつ発行金額を超える金額は、
法人税法上の寄付金の額にあたる。

  (2)判例評釈

A金子宏氏の説[6]

寄付金とは、
「金銭等の資産の贈与または経済的利益の無償の供与のこと」と、した上で、
「ここに「無償」とは、対価またはそれに相当する金銭等の流入が伴わないことを意味している」
と解している。

そして、「新株の時価に比して著しく過大な増資払込金等」は寄付金に含まれるとしている。

ここで、寄付金にあたらない場合としては、
「債権の回収が不能であるためこれを放棄する場合、
損失を負担しなければより大きな損失を被ることが明らかであるため、
やむをえず負担を行う場合等、
その経済的利益の供与につき
経済取引として十分に首肯しうる合理的理由がある場合」の経済的利益の供与であって、
「金銭を貸し付け、後に回収不能を理由として免除した場合において、
回収不能が最初から予知されていた場合」には、
経済的合理性が認められず、
当該貸付金は寄付金に該当すると解すべきとしている。

つまり、相互タクシー事件においては、
後に損失を被ることが予知されていたため、
寄付金に該当することとなる。

また、ここで金子氏は、DESについては、
資本等取引の中でありながらも、損益取引の要素も含むとの解釈を示している。

A品川芳宣氏の説[7]

「本件増資が形式上資本等取引に該当することは明らかである。」

そして、有価証券の取得価額についても、
「その払い込んだ金額とその取得に要した費用の合計額とされる」ことから、
本件増資払込金は、「まさしく「払い込んだ金額」であるから、
形式上(・・・)その全額が本件株式の取得価額となる(傍点、筆者)」
とした上で、
寄付金課税の該当性について、
その増資払込みが
「金銭等の「贈与または無償の供与」に当たるか否かが問題となる」としている。

そのうえで、著しく高い価額での増資払込みについて、
「その異常性が明白」であるとして、
「有価証券の取得金額及び資本等取引の定義にかかわらず、
本判決が判示するように、
本件増資払込金の一部が寄付金であると認定することもできようし、
法人税法132条を適用して、
本件株式の取得価額を減額(寄付金)すべきであるとも考えられる。」
として、寄付金課税の根拠を法人税法第132条に示している。

ここで品川氏は
「異常でかつ見え透いた利益操作が行われている場合」には、
「増資払込金の損金性を否定することはできない(傍線、筆者)」
としている。

B岡村忠生氏の説[8]

「本判決は、「対価」の有無を経済的合理性で判断し、
「払い込んだ金額」を法人税法上の評価として否認した。
こうした経済的合理性に基づく判断や私法上有効な取引の実質による上書きは、
行為計算否認に見られる特質または行為計算否認そのものであり、
これを法37条が一般的に認めていると見ることはできない」
として、法人税法第132条による否認を主張している。

また、岡村氏は、DESは債権を手放して株式を取得する取引、
つまり、譲渡であるから、
たとえ相手方が子会社であっても
「公正な時価を基準として損益を認識しなければならない」
として、

それゆえに、「対価が時価である限り寄付金認定は不可能である」としている。

すなわち、取得された株式を全く無価値と断定できる場合を除いて、
DESを債権放棄とみることはできないとして、
DESに係る譲渡損失を否認することは、
実定法上は行為計算否認規定(法人税法第132条)によるべきである旨を主張している。[9]

なお、岡村氏と同様の意見としては
岩ア政明氏が、
「取引を単体として観察するならば、
それぞれ一応の経済的合理性を持つ取引であると評価できるものの、
これら「一連の行為」として見たことにより、行為計算否認的な判決が下された」
と解釈している。[10]

なお、反対意見としては、藤田耕司・岡本高太郎両氏が、
「税務リスクが怖くて行えなくなってしまう」と述べている。[11]

(3)裁判所の見解と判例評釈の異同点

裁判所の見解としては、
X社の行ったDESについては結果的に債権の評価切り下げを無税償却したこととなり、
取引に経済的合理性が見受けられず、
この増資によってB者は債務超過を減少したにとどまり、
つまりB株の価値は0円であるのだから、
そのB株を取得したX社は増資引き受けによって対価を得ておらず、
かつ、
B社側が増資払い込み金額を資本金に組み入れたことと、
X社側において増資引き受けが資本取引に該当するか否かとは
関係ないとして、寄付金課税を容認した。

この見解に最も近いと思われるのが、金子氏解釈である。

金子氏も裁判所と同様、本件取引については、
B株は無価値(回収不能が予知されていた)として、
その増資引き受けには経済的合理性がなく、
寄付金に相当すると述べている。

また、金子氏は、DES取引に関して、
損益要素を含むこともあり得るとして、その特殊性を主張している。

    そして品川氏については、
寄付金課税を容認しているものの、その根拠としては、
「異常性」という文言により、無償の取引(B株は対価といえない)としている。

この件については、法人税法第132条を適用して、
寄付金課税と見ることもできるとして、
その理由として個々の取引は合理性があるという点を述べている(増資引受けは資本取引である)。

    裁判所とまったく別の見解を示しているのが、岡村氏である。

岡村氏はDESは資本取引でありおよそ寄付金にはなりえないのであるから、
取引全体として法人税法第132条の適用を主張している。

   以上のように、課税されることについての異論は存在しないものの、
判事事項に一番近い解釈が金子氏の説であり、
寄付金課税を否定している説が岡村説、
そして、中間的な解釈が品川氏である。

 

4項 概要及び検討

相互タクシー事件は、
DESにつき原告がした、通常の価額よりも高い価額による増資引受けについて、
その差額が寄付金に該当するかどうかが争点となった事件である。

法人税法第37条第6項にいう、

「贈与又は無償の供与」とは、民法上の贈与であるべきか否か、
時価を超える部分について対価性があるか否かが争点となったが、
この点について、対価性がなく、「資産または経済的利益の無償の供与」
として、法人税法第37条の寄付金にあたるべきとして、
原告の請求が棄却された。

債務超過に陥り返済が困難な状況にあった子会社B社のために、
親会社X社は、B社の債務超過を減少させるために
発行価額50円の株式を100万円で増資引受けをした。

B社は発行価額相当額を資本金に組み入れ、
増資払込金線をもってX社に債務を返済、
X社はB株を316円で売却し、
譲渡価額と取得価額との差額を譲渡損失に計上した。

しかし課税庁側は、X社のB社に対する増資引受けのうち、
額面金額を超える部分についてはX社からB社に対する寄付金であるとし、
更に額面金額と譲渡価額(及び手数料)との差額を譲渡益であると主張した。

この場合、問題となるのは、
発行価額50円の株式を100万円もの金額で引受けていることであり、
その差額999950円の取扱いが問題となる。

つまり、その金額が寄付金の額に該当するのか、
また、売却価額316円との差が999684円の譲渡損が認められるのか
といった問題が生ずる。

本件を一連の取引としてみると、
999950円については、
B社に対する債務免除であるとも考えられ、
債権の評価損の計上を認めたのと同等の効果を得たことになっている。

 

(1)個々の取引の合理性

本件においては、B社の増資をXが金銭をもって引受け、
B社はその増資払込金額のうち、
発行価額50円に相当する金額57,000千円につき、
資本金に、差額52,843千円を資本準備金に組入れている。

これは、資本等取引に該当し(法22E)、違法性は見受けられない。

また、Xにおいては
そのB株を払い込んだ金額である52,000千円で取得価額を構成した。

B株が52,900千円もの価値がないことは明らかであるのだが、
法人税法上、有価証券の取得価額は、その取得のために要した価額とされている(令119C)。

また、支配目的の株式を取得した場合には、
その取得価額は、
株式等の通常の価額に企業支配に係る対価の額を加算した金額とされている(基通9-1-15)。

その後B社はX社に債務を返済、Xは債権を回収する。

つまりDESを行ったことと同様の効果を得ている。

更にXは、B株を譲渡し、
その譲渡価額と取得価額の差額を譲渡損に計上している。

そして、その譲渡をした事業年度の損金の額に算入しており、
この部分についても違法性は存在しない(法612)。

また企業会計原則では、
「すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、
その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない」[12]

とされており、
法人税法上も法人税法第2232号において、
「当該事業年度の・・・」
と規定していることから、この原理が働くと考えられる。[13]

本件で譲渡損は、「売却」という行為によって、実際に発生しているのであるから、
譲渡損を計上したことについては、違法性は見受けられない。

(2)取引全体としての異常性

   この一連の取引は、X社が譲渡損という形を取って、
債務超過に陥った貸付金の評価切下げ部分の無税償却を図ろうとしたものであると推定される。

すなわち、この一連の取引を通して
Bに対する債権の評価切下げを行ったのである。

   それを課税庁側が否認し、
差額部分について損金計上に限度が設けられている寄付金とし、
さらに、譲渡損も否認、逆に売却益を計上することとし、
判旨もその大部分を認める判決となっている。

これは、DES後の株式譲渡という手法により、
結果的に債権の評価切下げ、
すなわち、無税償却を図ろうとしたことが明白だったからである。

法人税法上、原則として資産の評価切下げは認められていない(法33@)。

通常の金銭債権の含み損については、
貸倒引当金の規定が適用されるものとされており(法52)、
評価替えの対象とならないこととされている。[14]

債権の評価切下げの方法としては、貸倒損失の計上がある。

貸倒損失については、
法人税法第22条第3項第3号に規定する損失の額に含まれ、
損金の額に算入される。

貸倒損失の計上に関しては、法人税法上明文規定はないが、
法人税基本通達において
次の場合にのみ計上ができることとされている(基通9-6-1)。

 

   【法人税基本通達9-6-1に規定する要件】

(1) 更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において、
これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額

(2) 特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、
この決定により切り捨てられることとなった部分の金額

(3) 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で
次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額

イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により
債務者の負債整理を定めているもの

ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる
当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの

(4) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、
その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、
その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額

特に、私的整理は法律の手続きに基づかずに、
最終的には債権者間の合意に基づく債権放棄の意思決定であるので、
法的整理に比して客観性に乏しく恣意性の介入する余地があり、
客観性を明確にすることが税務上の無税償却における条件となる。[15]


債権の評価切下げである貸倒損失は、
厳格に適用されることが否認を受けないための要件となっているのである。[16]

本件がその要件と同視できるかどうかが問題となるのであるが、
Bは単に債務超過に陥っていたというだけで、
ここにいう、貸倒損失と同様の事実があったとは言えない。

にもかかわらず、
X社はB株の譲渡により
法人税法第612条にいう譲渡損を計上することで、
あたかも法人税法第22条に規定する損金の額に該当すると見せかけて、
結果的に厳格な要件が設けられている貸倒損失と同様の効果を得たのである。

ところで、仮にXB株を譲渡していなかったとすると、
その場合、B株の評価損を計上できるのかという問題が生ずる。

この場合、増資引き受け後の評価切下げにあたり、
損金に算入されないこととなる(基通9-1-12)。

増資引受け後の、評価損計上について、
その計上に制限が設けられているからである。

赤字子会社を親会社が救済する場合、
その子会社株式の評価については、
「企業支配の対価の額」とし、評価損を認めないとするものである(基通91-15)。

つまり、取得した子会社株式の価額は、その取得に要した金額とされ、
増資引受け後の評価損は原則として認められていない。過去の判例においても、
債務超過に陥った子会社を救済するために増資を引き受け、
その事業年度において時価まで引き下げ、
評価損を計上したものの損金の計上に関しては否認されている
(例えば東京地裁平成元年925日判決。以下ケンウッド事件という)。[17]

評価減が計上できる要件としては、
株式の著しい(・・・)価額(・・)()低下(・・)とともに、
近い将来回復(・・)()見込み(・・・)()ない()ことが必要である(基通9-1-7,9-1-10、傍点、筆者)。

「資産状態の著しい悪化」とは、
破産手続き開始決定等がない限り、
その事業年度終了時の株式の純資産価額が株式取得時の純資産価額の
おおむね50%以上下回ることである(基通9-1-9(2))。

また、「価額の著しい低下」とは、
その事業年度終了時の株式の価額がその帳簿価額の
おおむね50%相当額を下回り、かつ
近い将来その価額の回復が見込まれないことである(基通9-1-7)。

増資引受けをするということは、
何のメリットもなしに行うということは考えがたく、
その増資引受けによって経営改善される、
すなわち、株価も回復する見込みがあるとして行われるはずである。
にもかかわらず、債務超過に陥っているというだけの理由で、
評価損を計上することは、経済的合理性に欠けることとなる。

つまり、債権のままであったり、B株をそのまま保有していたとしたら、
その含み損失の計上は認められなかったにもかかわらず、
DESによりその含み損失部分を損失に算入したことが問題となる。

会計上、損失とは、一般に収益の獲得のための活動に貢献せず、
収益との因果関係のない財産の価値の喪失をいう。
典型的なものとしては貸倒損失・災害損失・為替損失・盗難による損失などである。

しかし、税法上は費用と損失の明確な区分はそれほど重要ではない。
ある種の支出が費用であっても損失であっても、
いずれも損金の額に算入されるからである。
損失について重要な点は、その事業年度の損失であることと、
資本等取引以外にかかわるものであることである。[18]

株式の譲渡という行為そのものは、
資本の増減取引をもたらすものではなく、
まさに、損益を発生させる取引であるし、
その事業年度の損益であることには違いない。

先に述べたとおり、法人税法上損金の額に算入される金額は、
「一般に公正妥当と認められる会計基準」によることとされており、
一般的にそれは企業会計原則であるが、
ここに、企業会計上の費用と、法人税法上の損金に差異が生ずることとなる。[19]

つまり、相互タクシー事件では、著しく高い価額での増資引き受けについて、
「経済取引として十分に首肯し得る合理的理由があるとは認められない。」
と、判示されている。

故に、「本件増資払込金のうち150円を超える部分については、対価がなく、
「資産又は経済的利益の無償の供与」として、
37条の寄附金に当たるというべきである。」という判示にもある通り、
取得した子会社株式について、
実際に要した価額ではなく、額面金額で評価させたのである。

確かに、この一連(・・)()行為(・・)については、異常性が明白である。

債務超過に陥った子会社を救済するために、その増資引き受けを高額で行い、
その金銭をもって貸付金を回収、
その後株式を売却しその譲渡損を計上、という一つ一つの行為に、違法性は見受けられないが、
不良債権化した貸付債権を無税償却することを目的とした、
つまり租税回避行為を行ったことは明白である。

わが国の学説上、「租税回避行為」とは、一般的には、
「私法上の選択可能性を利用し、
私的経済取引プロパーの見地からは合理的理由がないのに、
通常用いられない法形式を選択することによって、
結果的には意図した経済的目的ないし経済的効果を実現しながら、
通常用いられる法形式に対応する課税要件をも免れ、
もって税負担を減少させ、あるいは、排除すること」[20]


「私法上の選択可能性の自由を利用して租税負担を軽減するために、法形式の濫用」[21]をすること、
または、「課税要件の充足を避けることにより租税負担の不当な軽減又は排除」[22]する行為である
とされている。

このような行為が可能になるのは、
私法の分野において
私的自治[23]ないし契約自由の原則[24]が支配しているためである。

私的経済取引プロパーの見地からみれば、合理的理由がないにもかかわらず、
通常用いられない法形式を選択したり、
税法上当然採るであろうと考えられる法形式を選択せず、
これらとは別の法形式を選択することにより、
結果的には意図した経済目的ないし経済的成果を実現しながら、
通常採られたであろう法形式を採用した場合であれば当然負担したであろう租税の負担を軽減し、
場合によってはその負担を回避することが可能になる。[25]

すなわち、「私法上は真実有効な取引として当事者間に存在」するが租税回避行為は、
その内容が
「もっぱら租税回避を目的とするがゆえに社会一般の経済通念として
一致しない不自然不合理性が認められる点」
に特徴があり、実質主義を税法解釈上の原則[26]とみる立場からは、
これを「社会一般の通念に照らして不自然不合理な点を否認し、
当事者の租税回避の意図を排除したところで課税関係を律すべき」である。[27]

本件についてはまさに、
債務免除という当然とられるべき方法を用いずに、
増資引受け、債権回収、株式譲渡という、法人が恣意的に選択できる手法を用いて、
結果的には意図した経済取引(ここでは債権の評価切下げ)を実現し、
本来負担すべき税負担を回避したのである。

しかし、本件の判旨では、その部分には触れず、
Xの増資引受けについてその差額部分は
X社からB社に対する経済的利益の供与、
つまり、寄付金であることを、課税の根拠としている。

その点について、
岡村忠生氏は、
「こうした経済的合理性に基づく判断や私法上有効な取引の実質による上書きは、
行為計算否認に見られる特質または行為計算否認そのものであり、
これを法37条が一般的に認めていると見ることはできない。」
と反論し、[28]
DESが一般的に寄付金として認められることに懸念をもち、
法人税法第132条を適用すべきだというのである。

  法人税法第132条とは、
同族会社の行為計算否認規定であり、
その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には
法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、
その行為又は計算にかかわらず、
税務署長の認めるところにより、
その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる旨
が規定されている。

法人の行為又は計算のうち、
何が税負担を「不当に減少させる」結果となるかという問題については、
最近では、
「純経済人の行為として不合理・不自然と認められる行為又は計算のことを指す」
と解されている。[29]

法人税法第132条については、金子氏は、
租税回避行為に関する「やや一般的な否認規定」と位置付けている。[30]

つまり、同族会社の行為又は計算で「これを容認した場合」に、
法人税の負担を「不当に減少させる結果となると認められる」ときは、
これを否認して更正又は決定を行うことができる(・・・)というものである(傍点、筆者)。[31]

法人が租税回避行為を行ったと認められる場合には、
この規定を適用して、税務署長がその行為計算を否認することができるのである。

確かに、相互タクシー事件との類似判例である、
東京地裁平成121130日判決(以下、「スリーエス事件」という)[32]
においては、
「額面金額である発行価額を大幅に超える払込みを行うのは、
通常の経済人を基準とすれば合理性はなく、不自然・不合理な経済行為である。
原告は子会社を救済する必要性、妥当性を指摘して右行為の合理性を主張するが、
株式を取得する際には
そのような背景事情を捨象した株式自体の価値に着目して対価を決定するのが、
税法の想定する通常の経済人を基準とした合理性のある行為と考えるべきである」
として、法人税法第132条によって、行為計算否認規定を適用している。

スリーエス事件における子会社株式の著しく高い増資引受けついて佐藤孝一氏は、
債務超過の状態にあって
将来成長が確実に見込まれるような特別の事情も見当たらないのであって、
通常の経済人を基準とすると合理性がなく、
不自然・不合理な経済行為であるから、
法人税法第132条の適用は適法であるとしている。[33]

しかし、この件について、上西左大信氏は
「債務超過の状態にある本件子会社の「無価値」である株式を高額で引き受けたことにある」
として、
「本件一連の行為を否認するのではなく、
高額で払込行為に対して法37条の寄付金課税を適用することが妥当であると考える」
と反論している。

また、藤田耕司・岡本高太郎両氏も、
「主観的な要件があることが同族会社の行為・計算否認の条件になるわけではない。
しかし、逆に、主観的に正当な目的がある場合には、
一見同じような行為であっても経済的合理性が認められ、
同族法人の行為・計算否認や寄付金認定するべきでない、ということはありうる。
そのような取扱いの余地があることを認める記述をするべきであったのではないか、と考える」
と述べ、DESが税務リスクを恐れるあまり利用しづらくなるという理由から、
法人税法第132条を根拠とする判旨について、強く批判している
(ただし、正当な再建計画に沿った出資でないことが明らかなので、
基本的に寄付金となる判断に異論はないとしている)。[34]

寄付金認定するにあたって
法人税法第132条を適用し寄付金認定することもできるとの解釈もあるが[35]

藤田・岡本両氏は、
相互タクシー事件の判旨が
「「親会社が赤字の子会社に対して増資払込みをすることについては、
企業支配、経営支援等の必要性から
その事情においてやむを得ない場合があることが考えられること」
に言及し、
「債務超過の子会社に対する増資払込みも、
必ず寄付金とならない可能性を示している」
ことを例に挙げて、
額面金額を判断基準とする寄付金認定について支持しているのであるが、
株式額面制度が廃止されたことにより税務リスクを回避することが困難となり、
事業再建の一手法であるDESが利用しづらくなることに懸念を示している。[36]

スリーエス事件についての判例評釈として、
岩ア政明氏は、否認対象となる「行為又は計算」の意義の解釈を
「純経済人の行為として不合理・不自然と認められる行為又は計算のことを指す」
として、
子会社の増資新株を、
その純資産価額等を超える金額により引き受けたとしても、
その超える部分の金額は
企業支配の対価と解する余地がある」のだから、
「債務超過に陥っている株式を同族関係にない別会社に譲渡する際には、
株式の取引価額を極めて低額に設定したとしても、
これをもって経済的に不合理な取引とはいえない」
としつつも、
「一定の経済的合理性がありさえすれば、
それだけで租税回避の否認が許されなくなるといえるわけではない」
として、
経済的合理性を欠くことの要件を、
「租税負担の不当な減少」要件と分離して、
別個独立に認定すると解するよりも、
「両者を一体的要件として理解するほうが素直な読み方であろう」
としている。

しかし、岩ア氏はさらに、
「債務超過の状態にあるとはいえ
将来性のある子会社の支配株式を子会社の支配株式を
著しく低額で別会社に譲渡したことに問題があるとすれば、
それはいわゆる資産の低額譲渡のケース」であり、
寄付金認定の可否が問題となるとも考えられることを示している。[37]

相互タクシー事件では、
子会社救済を名目に自らも他の株式の譲渡益と相殺する目的で譲渡損を発生させており、
「自らの利益」を考えていたといえる。

つまり、譲渡損を最初から予知していたのである。

このことから金子氏は、
「回収不能が最初から予知されていた場合には、
貸付けには経済的合理性が認められず、
当該貸付金は寄付金に該当すべきと解すべき」[38]
である
として
寄付金課税を容認しており、
このような「自らの利益」を意図した経済的利益の供与については、
小林麿寿美氏も、
寄付金に該当することとなると述べている。[39]

 

  3.検討

   以上の通り本件は、個々の取引については、
違法性は見当たらず合理性があるといえる。

しかし、取引全体として見た場合、
不良債権を無税償却しようとしたことは明らかであり、
かつ、異常性の高いものとなっている。
こういった法形式の濫用に対して課税されることについて
異論を唱える説は存在しないのであるが、
確かにDESは資本等取引に該当し、
また、基本通達により寄付金の額に該当しない旨が定められているにもかかわらず、
課税が適法とされており、その判断基準が曖昧で解釈についてもさまざまである。

判示事項で
債権の評価切下げに相当する部分については、
有税償却の見解が示されたのであるが、
DESは債務超過の疑いのある会社の債権を目的とするものであるのだから、
その差額の取扱いについて税務リスクのために、
使いづらいものとなってしまっては、DESの利用に弊害が生ずる。

このような弊害が起こりえたのは、
DESに関する取扱いが法人税法上明確にされていなかったためである。

しかし、平成改正により、その取扱いが明確化されため、
同様の効果をもたらす金銭出資によるDESにおいても、
相互タクシー事件の判旨と合わせて
その判断基準としての目安が示されたと考えられる。

特に、DESについて評価額説が採られることになったことは、
大きな意義があったと考える。

これはすなわち、本来資本等取引である増資引受けについて、
損益取引に該当することを意味し、
これに伴い
別段の定めとしての法人税法第37条の適用の可能性をも持たせることとなる。

これは、金子氏の言うDESは「資本取引と損益取引の混合取引」である、
という解釈に近いものであると考える。

裁判所も、増資した側で資本の額に組入れたか否かは問題でない旨を述べており、
これは暗に、
DESについては損益取引の要素をも含む可能性がある解釈を示している
と考える。

このことにより、別段の定めとしての寄付金課税の可能性を示唆し、
法形式の濫用について牽制する意味合いもあるし、
損金計上による税法上の優遇制度とも捉えることができ
企業再生をバックアップする意味合いも持つと考える。

また、評価額説を採る場合のその判断基準も明確化され、
貸倒損失との整合性も採れたこととなる。
更に、近年の国際会計基準の移行の流れを考えても、
評価額説による時価評価については時代の流れに即していると考えられる。

 

 



 

 



参考文献

[1] 太田達也『「純資産の部」完全解説―「増資・原子の実務」を中心に―』419頁(税務研究会出版局,平成22年)。

[2] 福井地判平成13117日税資第2508815

[3] 劣後株式となる。なお、劣後株式とは「他の株式に遅れてしか剰余金の配当等を受け取れない株式」をいう。「会社再建の際に会社と特別の関係がある者が引き受ける場合のほか、政府・民間共同出資の会社において政府出資が劣後株式とされる例がある」。江頭憲治郎「株式会社法(第3版)」(有斐閣,2009年)135頁。

[4] 福井地判平成13117日税資第2508815

[5] 福井地判平成13117日税資第2508815

[6] 金子宏『租税法(第15版)』318頁(弘文堂, 平成22年)

[7] 品川芳宣『重要租税判決の実務研究』438頁(大蔵財務協会,平成17年)。

[8] 別冊ジュリスト『租税法判例百選[4]117頁(有斐閣,2005年)。

[9] 岡村忠生「法人税法講義[第2版]」337頁(成文堂,2006年)。

[10] 岩ア政明「租税回避の否認と法の解釈適用の限界−取引の一体的把握による同族会社の行為計算否認―」87頁『租税法の基本問題』(有斐閣,2010年)。

[11] 藤田耕司・岡本高太郎「デット・エクイティ・スワップヲめぐる税法と商法の交錯」396頁中里実・神田秀樹『ビジネス・タックス』(有斐閣,2005年)。

[12]  企業会計原則 第二 損益計算書原則一 A[発生主義の原則]の内容。この損益計算書原則一では、損益計算書の本質として「損益計算書は、企業の経営成績を明らかにするため、一会計期間に属するすべての収益とこれに対応するすべての費用とを記載して経常利益を表示し・・・」と規定されている。

[13] 藤曲武美「各事業年度の所得の金額の計算-損金の額・公正処理基準」148頁(税務弘報,2010年)

[14] 今井康雄『ケース・スタディ評価損・譲渡損をめぐる法人税実務』257頁(ぎょうせい,2010年)。

[15] 大村圭一「法的整理・私的整理があった場合」36頁(税務弘報,20115月号)。

[16] 瀬戸口有雄『−否認を受けないための―判例から学ぶ』法人税重要事例検討集』563頁(税務研究会出版局,平成14年)。

[17] 音響機器等の製造販売業であるXが、債務超過状態に陥っていた米国子会社の増資引受けを行い、その増資引受けをした事業年度において株式の評価損を計上、「資産状態悪化」の要件は満たされていたと考えられるが、判旨は「回復見込性」について予測可能であったこと、資産状態は長期的には改善される方向にあったという理由で、「資産条件悪化」の要件を満たさないとして否認された事例。この事件については一部(後掲注61、平石氏)を除いては、判旨・評釈ともほぼ一致した見解を示しており、神田秀樹氏は「「資産状態悪化」要件は満たしていたが「価額低下」要件とくに「回収見込み性欠如」の要件を満たしていないという理由で評価損の損金算入を否定すべきではなかったか。」と、判旨の一部に疑問を投げかけている。また、高木氏は、評価損計上に関して「限定的な解釈」がなされていると述べている。東京地判平成元年925日判タ72598頁、税資173859頁、訴月362285頁。岡本博美「増資払込後における外国子会社株式評価損が損金算入されるか否か」179『法人税法精選重要判例詳解』(税務経理協会)、武田昌輔「外国子会社株式の評価損の損金算入の可否」判時1346186頁、渋谷雅弘「外国子会社株式の評価損の損金算入が否認された事例」122頁(自治研究694号)、神田秀樹『株式の評価損』108頁『別冊ジュリスト178「租税法判例百選[第4版]」』(有斐閣,2005年)高木美満子「法人税法における有価証券の時価評価―その理論的根拠と拡大可能性」税務大学校。

[18] 武田昌輔『DHCコンメンタール法人税法』1143頁(第一法規,平成22年)。

[19] なお、ケンウッド事件と企業会計原則との関係に関して、平石雄一郎氏は「商法、企業会計上、経理「しなければならない」ものは、税法上も認めるということを基本的な解釈原則とすべきものと解する」、という指摘がある。平石雄一郎「所有する外国子会社の株式につき評価損の損金算入が否認された事例」ジュリスト 960 90

[20] 金子宏『租税法[第15版]』114頁(弘文堂, 平成22年)。

[21] 水野忠恒『租税法[第3版]』25頁(有斐閣,2007年)。

[22] 清永敬次『税法[6]43(ミネルヴァ書房,2003)

[23] 近代社会においては,個人はそれぞれ自由・平等であるとされているが,そのような個人を拘束し,権利義務関係を成り立たせるものは,それぞれの意思であるとする考え方。『法律学小辞典第4版補訂版』(有斐閣

[24] 個人の契約関係は,契約当事者の自由な意思によって決定されるのであって,国家は干渉してはならないという近代私法の原則。契約を締結するかどうかについての自由(締約の自由),どのような相手方と契約をするかについての自由(相手方選択の自由),どのような内容の契約をするかについての自由(内容の自由),どのような方式による契約をするかの自由(方式の自由)がその内容であるとされる。『法律学小辞典第4版補訂版』      

[25] 川田剛『節税と租税回避―判例にみる境界線―』7頁(税務経理協会,平成21年)。

[26] 事実認定についてはもとよりのこと、税法の解釈に際しても、法文の文言だけにとらわれることなく、法の目的なり意思なりを探求し、税負担の公平の見地から経済的意義及び実質に即して判断し、かつ課税を行うべきであるという考え方。渡辺淑夫『法人税法―その理論と実務<平成22年度版>90頁(中央経済社,2010年)。

[27] 渡辺淑夫『法人税法―その理論と実務<平成22年度版>91頁(中央経済社,2010年)。

[28] 別冊ジュリスト『租税法判例百選[4]117頁(有斐閣,2005年)。

[29] 岩ア政明「租税回避の否認と法の解釈適用の限界−取引の一体的把握による同族会社の行為計算否認―」75頁『租税法の基本問題』(有斐閣,2010年)。

[30] 金子宏『租税法[第15版]』117頁(弘文堂,平成22年)。

[31] 金子宏『租税法[第15版]』117頁(弘文堂,平成22年)。

[32] 神戸地判平成121130日判決訴月48112,785頁、税資249884頁。

原告が不良債権化した子会社に対する貸付債権処理のため、その増資引受けを高額で引き受け、その株式を低額で譲渡することにより有価証券売却損を計上たことに対し、課税庁が法人税法第132条を適用してその一連の行為を否認。裁判所もこの行為を容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となるとして、法人税法第132条の適用を容認した事件である。相互タクシー事件と酷似した事件であるが、相互タクシー事件では券面額と評価額の差額につき寄付金課税の適法性が容認されたのに対し、スリーエス事件に関しては、取引そのものを否認する法人税法第132条が適用された点で、大きな相違がある。

[33] 佐藤孝一『最近の税務訴訟(V)』919頁(大蔵財務協会,平成15年)。

[34] 藤田耕司・岡本高太郎『デット・エクイティ・スワップをめぐる税法と商法の交錯』中里実・神田秀樹「ビジネス・タックス」391頁(2005,有斐閣)。

[35] 品川芳宣『重要租税判決の実務研究』438頁(大蔵財務協会,平成17年)。

[36] 藤田耕司・岡本高太郎『デット・エクイティ・スワップをめぐる税法と商法の交錯』中里実・神田秀樹「ビジネス・タックス」391頁(2005,有斐閣)。

[37] 岩ア政明「子会社株式の高価引受と同族会社の行為計算否認」ジュリスト 12152002年。

[38] 金子宏『租税法(第15版)』319頁(弘文堂, 平成22年)。

[39] 小林麿寿美「子会社債権の放棄と寄付金認定」税務経理協会編『法人税精選重要判例詳解』117頁(税務経理協会,2005年)。





 トップページへ戻る

 研究室へ戻る

 「DESに関する一考察」を見てみる



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

inserted by FC2 system