コラム すみれの小径
「3.逆風 〜消費税増税にモノ申スA〜 」
税理士 松田
昭子
消費税増税が公平であるかどうかという議論をよく耳にする。
一般的な流れから考えると、
増税により仕入等に係る費用負担が上がるのと同時に、
販売にかかる消費者からの受取る消費税額も上がり、
増税前と同等の利益を確保できる(これを転嫁という)。
しかし、これらが全ての業種に該当するのであろうか。
例えば、医療機関の場合。診療報酬は基本的に非課税である。
そして、この診療報酬については、
厚生労働省が決定した基準に基づき算定されるため、
消費税増税によって収益金額にまで影響が及ばない。
しかし費用については、そのほとんどが課税となる。
ここで、収益はそのままであるにもかかわらず、
費用負担が消費税増税により増えることとなるのである。
具体的数値の例示をあげるとしよう。
1.申告による消費税納付額の具体例
(※便宜的に国税・地方税の区分は行っていない。)
(例)売上100円、仕入100円 とした場合
@.課税売上割合が100%(全てが課税売上)である場合の確定消費税額
5%なら 売上にかかる消費税 5
仕入にかかる消費税 5
差引 0
8%なら 売上にかかる消費税 8
仕入にかかる消費税 8
差引 0
増税による、損益への影響なし。
A.課税売上割合が50%である場合の確定消費税額
5%なら 売上にかかる消費税 100×50%×5%=2.5
仕入にかかる消費税 100×5%= 5
差引 損失 2.5
8%なら 売上にかかる消費税 100×50%×8%=4
仕入にかかる消費税 100×8%= 8
差引 損失 4
支出負担が1.5増、利益が減少。
B.課税売上割合が10%である場合の確定消費税額
5%なら 売上にかかる消費税 100×10%×5%=0.5
仕入にかかる消費税 100×5%= 5
差引 損失 4.5
8%なら 売上にかかる消費税 100×10%×8%=0.8
仕入にかかる消費税 100×8%= 8
差引 損失 7.2
支出が2.7増、利益減少。
∴ 増税により、支出負担は増え、
課税売上割合が低いほど損益の影響が大きいことになる。
2.影響
@ 診療報酬は基本的に非課税であり、
改定されたとしても消費税増税分相当の増額は期待できない。
A
費用は基本的に課税であり、経費支払時には消費税が支払われ、
増税分の負担増となる。
(現行5%が8%になるので、
支払消費税額も当然のことながら増えることになり(約1.6倍)、
経費支払時についても、
増税分の負担が増となる。。
B
申告による支払消費税についても、増税分の負担増となる。
C
これらに伴い、収益がそのままであると想定した場合、
消費税増税分の費用負担が増えることとなる。
以上のとおり、課税売上割合・収益費用が同様であった場合、
課税売上割合が低い事業者ほど、支出・費用負担が増加し、
損益にも大きく影響することとなる。
つまり、費用負担が増加しているにもかかわらず、
さらに、増税により申告消費税の金額も増額してしまうのである。
消費税の目的は、福祉への貢献と大々的に謳っており、
24年3月30日に提出された法案についても、
「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案」
などという、仰々しいタイトルが付されている。
しかし、真に社会保障の安定を図ろうとするのであれば、
医療機関福祉事業者への負担増になるような税制であるのなら、
矛盾しているのではないだろうか。
消費税については、課税事業者の判定等についても決して合理的であるとは言えず、
その申告方法によって納付税額に影響があり、
国民が簡易課税方式により支払っている消費税額が
公平に転嫁されているとは到底いえない法体系となっているのは言うまでもない。
消費税増税の前に、まずこういった法体系の見直しを行い、
転嫁の矛盾を限りなく0に近づけてもらいたいものである。
※当サイト関連ページ 控除対象外消費税について 研究室7 15
平成25年8月25日
参考
財務省HP内「国会提出法案」
https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/180diet/index.htm
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