コラム すみれの小径

「1.新風 〜公営企業の独法化の意義〜

                           税理士 松田 昭子



ここ10数年、公営企業の民営化、民間人からの登用等
公的機関のあり方が見直されてきている。

そして、公立病院の独立行政法人化も
各地方自治体で進められてきている。

しかし、その成果はいかほどであるのだろうか。

筆者は、これらの見直しが
単なる不採算取引を切り捨てるための
利益至上主義に基づくものではないと考える。

全ての不採算医療の切捨てをしてしまっては、
住民サービスという観点から問題があるのは言うまでもない。

それでは、なんのための独立行政法人化なのか。

筆者が現在勤務する地方独立行政法人である医療機関は
地方独立行政法人法(平成十五年七月十六日法律第百十八号)
に基づき設置された法人である。
地方独立行政法人法は、その法律制定が平成15年、
つまりまだ制定後10年という新しい制度である。

筆者が勤務するその法人の設立は平成23年で
その初年度から会計に携わらせていただいている。

丸2年が過ぎ、個人的に感じるのは
やはり、公営企業会計と一般的に使われている企業会計との温度差である。

単年度決算と期間損益計算、
予算第一主義ともいえる会計と複式簿記による会計との考え方の相違が
何よりも大きいであろう。

この点における会計面における専門的な内容は、
当サイトの研究室等でいずれ紹介したいと考えているが、
ここでは、別の観点から述べていくものとする。

筆者が注目したのは
地方独立行政法人法(以下地独)第13条及び35条〜37条である。

ここでは、監事の監査及び
会計監査人の監査について規定している。

これまでの、公会計でも、監査は行われていた。

しかし、地方独立行政法人法では、その会計監査人の選任について
公会計時代とは違い、その監査に「公認会計士」「監査法人」と規定している。
実際的には、公会計時代も正式な有識者が監査していたが、
地方独立行政法人法では、明文規定されているのである。

ここで疑問に感じるのが、
財務諸表の適正さのみを求めているのであれば
「税理士」の記帳指導だけでも十分足りるがずである。

特に実務に携わって大きく感じるのは
会計に対する考え方の乖離であり
また、地方独立行政法人会計には独特の概念があるため
その会計に即した処理を行うには
専門知識を要するには確かである。

その中で、なぜさらに
上場企業並の監査法人による監査(金融商品取引法193の2)
に相当するものを求めているのか。

これまでの公会計時代の監査でも足りるのではないのか。

筆者が二年間勤務して感じることは
旧公立病院(公営企業)においては、
上場企業で懸念されるような
粉飾決算や不正な取引はまず考えられない。

他法人のことはわからないが、少なくとも当法人ではあり得ないであろう。

それは、別に贔屓目に見ているのでも、必要以上に信用しているわけでもない。

地方独立行政法人においては、
粉飾や不正経理をすることについて、何のメリットもないからである。

上場企業のように
責任追及をされるようなことはほぼありえないのだから
わざわざ不正を犯してまで決算数値を変えるということは
なんの意味ももたないのである。

では、総務省は監査に何を求めているのであろうか。

筆者は
総務省の発表する
「地方独立行政法人に対する会計監査人の監査に係る報告書」のうち、
「第2章 監査の前提条件」の中の、
「第1節 内部統制」にその意義を感じる。

ここによると、

「地方独立行政法人における内部統制は、
地方独立行政法人の長が
業務管理全般を対象として構築するものであり、
内部統制組織とそれに影響を与える内部業務環境から構成される。」

「このうち監査上対象とされる内部統制とは、
適正な財務諸表の作成に関連する部分
及び
財務諸表等に重要な影響を与える法令に準拠していることを確保する部分である。」

「会計監査人は、リスク・アプローチを採用する場合、
アプローチを構成する各リスクの評価が肝要となるが、
なかでも統制リスクの評価は監査の成否の鍵となるものであり、
会計監査人は、内部統制の状況並びにその機能及び有効性を把握し、
統制リスクの評価を行わなければならない。

(〜中略〜)

「内部統制の有効性が監査の方法や結果に重要な影響を及ぼすことから、
会計監査人は地方独立行政法人の
内部統制に重大なる関心を持つことが必要であるとともに、
内部統制組織に改善すべき点がある場合には、
適時かつ積極的に改善に向けての指摘を行うことが望ましい。」

とされている。

ここでも、当然のことながらその監査の内容としては
会計分野に特化しているのであるが
その客観的視点からの監査とリスク評価が
重要になるのではないだろうか。

どこの組織でも共通することであるが
その組織内部だけの考え方だけに凝り固まっていては
見えてこない部分と言うものが存在する。

以前銀行勤務だった際、同僚がこのようなことを言っていた。

「銀行員の常識は、一般社会の非常識」

なかなか面白い表現である。

社員でありながらも、
客観的にその事実を意識している、
という点が、粋な観点である。

こういった意識が、組織には必要なのではないだろうか。

筆者は、その銀行では7年ほど勤務したのであるが
決して非常識だったとは思わない。

すべてにおいて、マニュアル至上主義で
あたり障りない対応のみしか出来ない点においては
賛否両論であろうが
しかし、それ故に金融機関独特の信用取引が存在するともいえるのである。

今まで色々な法人を見てきたが
どこの組織にも、それぞれ不思議な常識が存在し、
そこで働く労働者は、否応なしにその常識に従わなければならない。

その内容が、不本意なものであることもしばしばであるが
そうして秩序が保たれるのである。

だからこそ、客観的意見が必要であり、
別方面からの考え方というものを意識する必要があるのではないだろうか。

その客観的観点において、公営は一般企業に劣っているように感じている。

地方独立行政法人においては
会計監査人の監査だけではなく、
業務に関する監事の監査も義務付けられている(法13C)。

総務省は、その監事と会計監査人の関係について
次のように述べている。

まず、
「監事の職務及び権限は、
地方独立行政法人の財務諸表等の監査を包含するもの」
であり、
その監査の対象の範囲」は、
「会計監査人の監査を受けるか否かにより変化するものではない。」

したがって、
「監事は、会計監査人が監査を行う財務諸表等についても、
会計監査人の監査とは別にその職務と権限に基づき監査を行い」、

「事業年度の終了後に当該財務諸表を設立団体の長に提出するときは、
会計監査人の意見と併せて自らの監査意見を付すもの」

とされており、
この場合において
会計監査人の監査と監事の監査が併存するものと解される。

ただし、監事は、財務諸表等の監査においては、
会計監査人が会計の職業的専門家として
財務諸表等の監査を行うものであることを前提とし、
会計監査人の行った監査の方法とその結果の相当性を
自らの責任で判断した上で、
当該会計監査人の監査の結果を利用し
自らの意見を述べることができる。

つまり、会計面業務面双方から
有識者としての観点を踏まえて監査が行われているのである。

会計における適正さは、
業務面の適正さとは無関係に思われるかもしれないが、
これらは表裏一体の関係であり、
業務的適正さが確保されてこその適正な会計であるし、
会計の適正さから、業務的適正さも判断できるのである。

ここ数年、会社法において
内部統制・企業統治といったものが重要視されてきている。

これは、一般企業だけに限ったことではなく
公的機関においても、重要視すべき点であり、
これまでとは違った観点での新たな監査が入ることにより
独立行政法人化の意義が見出されるのではないだろうか。




 平成25年6月9日




参考:
地方独立行政法人に対する会計監査人の監査に係る報告書」
(平成16年3月24日(平成24年3月31日改訂)) 
総務省HP http://www.soumu.go.jp/main_content/000153267.pdf 平成25年6月9日)


地方独立行政法人法
(平成十五年七月十六日法律第百十八号)

(役員の職務及び権限)
第十三条
理事長は、地方独立行政法人を代表し、その業務を総理する。
 副理事長は、地方独立行政法人を代表し、定款で定めるところにより、理事長を補佐して地方独立行政法人の業務を掌理し、理事長に事故があるときはその職務を代理し、理事長が欠員のときはその職務を行う。
 理事は、定款で定めるところにより、理事長及び副理事長を補佐して地方独立行政法人の業務を掌理し、理事長及び副理事長に事故があるときはその職務を代理し、理事長及び副理事長が欠員のときはその職務を行う。
 監事は、地方独立行政法人の業務を監査する。
 監事は、監査の結果に基づき、必要があると認めるときは、理事長又は設立団体の長に意見を提出することができる。

(会計監査人の監査)
第三十五条  地方独立行政法人(その資本の額その他の経営の規模が政令で定める基準に達しない地方独立行政法人を除く。)は、財務諸表、事業報告書(会計に関する部分に限る。)及び決算報告書について、監事の監査のほか、会計監査人の監査を受けなければならない。

(会計監査人の選任)
第三十六条  会計監査人は、設立団体の長が選任する。

(会計監査人の資格)
第三十七条  会計監査人は、公認会計士(公認会計士法 (昭和二十三年法律第百三号)第十六条の二第五項 に規定する外国公認会計士を含む。)又は監査法人でなければならない。
2  公認会計士法 の規定により、財務諸表について監査をすることができない者は、会計監査人となることができない。







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