事件 File.3

敵対的買収と第三者割当てによる新株予約権発行差止め

                 税理士  松田 昭子


第三者割当による新株予約権発行の差止め 

東京高裁平成17323

【事実の概要】(筆者にて要約[1]、傍線筆者)

 一般放送事業を主たる事業内容とするY鰍ヘ、
東京証券取引所第二部に上場。
平成
172月現在
Y社の発行済株式総数は
3280万株、
同年
1月現在、Y社の株式を、
Y社と同じ甲グループに属するA梶iテレビジョン放送等が主たる事業内容)が
22.5%保有している。

A社は同年
117日、
Y社の経営権獲得を目的とし、
Y社保有にかかる自己株式を除く
全てのY社発行済株式の取得を目指して
証券取引法に定める公開買付け
[2]
開始することを決定。

Y社取締役会は同日、
以上の決定により、本件公開買付の賛同を決議した。

 コンピューターネットワークのコンサルティング等を主たる事業内容とするXは、
Y社の発行済株式総数の
5.4%を保有。

X社は、本件公開買付の期間中である同年
28日、
自らの子会社を通じて

東京証券取引所の立会外取引システム
ToSTNeT-1[3]を利用し
Y社の発行済株式総数の約29.6%に相当する株式
972270株を買い付けた。

その結果、X社とその子会社の保有Y株式は、
その発行済株式総数の
35.0に至った。

X社の代表取締役乙は、
Y社の株主数名に対しY社の普通株式全部の取得を希望し、
記者会見により放送局保有のWebサイトをポータル化して
シナジー効果
[4]を得ることが目的である旨、
また、甲グループとの業務提携を見据えていることを明らかにした。

 A社代表取締役会長丙はX社との業務提携に否定的で、
A社は同月
10日、
本件公開買付にかかる買付条件を変更
買付株式数の下限をA社が既に保有する分も含めて
Y社発行済株式総数の
25%とした

Y社取締役会は同月16日、
本件公開買付けの賛同を決議。

 Y社は、同月23日取締役会において、
第三者割当
[5]の方法により
4720個の新株予約権[6]を発行することを決議。

この新株予約権1個あたりの目的たる株式数は1万株、
その全ての割当先はA社とされている。

なお、この取締役会には
Y社の
19名の取締役が出席、
15名(特別利害関係人を除き、うち4名は社外取締役)の取締役の
全員一致によるものである。

 X社は、Y社による新株予約権発行につき、
特定の株主の議決権割合を低下させるものであり
また、A社の利益を図るものであること等、
著しく不公正な方法による発行であること等を理由に
差止仮処分の申立を行った。

原審はX社の仮処分命令申立を容認したことから
Y社が仮処分意義を申し立てたところ原審仮処分決定は認可。

これに対してY社が抗告。

【判旨】抗告棄却(確定)

(本件新株予約権発行の適否について)

「具体化している事業計画の実施のための
資金調達等というような事項については、
本来は取締役会の一般的な経営権限に委ねている。
実際にこれらの事業経営上の必要性と合理性があると判断され、
そのような経営判断に基づいて
第三者に対する新株等の発行が行われた場合には、
結果として既存株主の持株比率が低下することがあっても許容されるが、
会社の経営支配権に現に争いが生じている場面において、
取締役会が支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ、
現経営者又はこれを支持して事実上の影響力を及ぼしている
特定の株主の経営支配権を維持・確保することを
主要な目的として新株等を発行することまで、
これを取締役会の一般権限である経営判断事項として
無制限に認めているものではないと解すべきである。

 商法上、取締役の選任・解任は株主総会の専決事項であり、
取締役は株主の資本多数決によって
選任される執行機関といわざるを得ないから、
被選任者たる取締役に、
選任者たる株主構成の変更を主要な目的とする
新株等の発行をすることを一般的に許容することは、
商法が機関権限の分配を定めた法意に明らかに反するものである。

これは、自己の経営方針が
敵対的買収者
[7]の経営方針より
合理的であると信じた場合であっても同様に妥当するものである。

したがって、
現経営者が自己の信じる事業構成の方針を維持するために、
株主構成を変更すること自体を
主要な目的として新株を発行することは
原則として許されないというべきである。

 仮に好ましくない者が株主となることを阻止する必要があるのであれば、
定款に株式譲渡制限
[8]
設けることによってこれを達成することが出来るのであり、
このような制限を設けずに
公開会社として株式市場から資本を調達しておきながら、
多額の資本を投下して
大量の株式を取得した株主が現れるや否や、
取締役会が事後的に、
支配権の維持・確保は会社の利益のためであって
正当な目的があるなどとして新株予約権を発行し、
当該買収者の持株比率を一方的に低下させることは、
投資家の予測可能性といった観点からも許されないと言うべきである。

 以上の通り、
会社の経営支配権に現に争いが生じている場面において、
株式の敵対的買収によって
経営支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ、
現経営者又はこれを支持し事実上の影響力を及ぼしている
特定の株主の経営支配権を維持・確保することを主要な目的として
新株予約権の発行がされた場合には、
原則として「著シク不公正ナル方法」
(商
280条ノ394項が準用する280条ノ10)による
新株予約権の発行に該当するものと解するのが相当である。

 もっとも、
株主全体の利益の保護と言う観点から
新株予約権の発行を正当化するとの事情がある場合には、
例外的に経営支配権の維持・確保を主要な目的とする発行も
不公正発行に該当しないと解すべきである。
以下、その例を挙げる。

@     グリーンメイラー

真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず、
ただ株価をつりあげて高値で株式を会社関係者に引き取らせる目的で
株式の買収を行っている場合(いわゆるグリーンメイラー
[9]である場合)

A     焦土[10]化目的

会社経営を一時的に支配して
当該会社の事業経営上必要な
知的財産権、ノウハウ、企業秘密情報、主要取引先や顧客等を
当該買収者やそのグループ会社等に移譲させるなど、
いわゆる焦土化経営を行う目的で
株式の買収を行っている場合。

B     資産流用目的

会社経営を支配した後に、
当該会社の資産を当該買収者や
そのグループ会社等の債務の担保や弁済原資として流用する予定で
株式の買収を行っている場合。

C     高配当・売り抜け目的

会社経営を一時的に支配して
当該会社の事業に当面関係していない
不動産、有価証券など高額資産等を売却等処分させ、
その処分利益を持って一時的に高配当させるかあるいは、
一時的高配当による株価の急上昇の機会を狙って
株式の高価売り抜けする目的で株式の買収を行っている場合

 

このように、濫用目的を持って株式を取得した当該敵対的買収者は
株主として保護するに値しないし、
当該敵対的買収者を放置すれば
他の株主の利益が損なわれることが明らかであるから、
取締役会は、対抗手段として必要性や相当性が認められる限り、
経営支配権の維持・確保を主要な目的とする
新株予約権の発行を行うことが正当なものとして許されると解すべきである。

 したがって、
現に経営支配権争いが生じている場面において、
経営支配権の維持・確保を目的とした新株予約権の発行がされた場合には、
原則として、
不公正な発行として差止請求が認められるべきであるが、
株主全体の利益保護の観点から
当該新株予約権発行を正当化する特段の事情があること、
具体的には敵対的買収者が真摯に合理的な経営を目指すものではなく、
敵対的買収者による支配権取得が
会社に回復し難い損害をもたらす事情があることを
会社が疎明(いいわけ・弁明)立証した場合には、
会社の経営支配権の帰属に影響を及ぼすような
新株予約権の発行を差し止めることは出来ない。」

 

(本件新株予約権の発行の目的について)

「Y社取締役会は、X社等がY社の株式を大量に取得する以前から、
Y社をA社の完全子会社化して株式の上場廃止も意図し、
A社の公開買付に賛同することを決議していたものであり、
社外取締役
4名が
本件新株予約権の発行に賛成していることが認められ、

これらの事実から見て、
本件新株予約権の発行が
Y社の現取締役個人の保身を目的として決定されたとは認められない。

また、甲グループに属する経営陣の個人的利益を図る目的で
本件新株予約権の発行が決定されたことをうかがわせる資料も無い。

 しかしながら、
X社等がY社の発行済み株式総数の
29.6%に相当する株式を買い付けた後に
これに対する対抗措置として決定されたものであり、
その予約権全てが行使された場合には、
現在の発行済み株式総数の約
1.44倍にも当たる膨大な株式が発行され、
X社等による持株比率は
42%から17%となり、
A社の持株比率は新株予約権を行使した場合に取得した株式数だけで
59%になることが認められる。

 

 その実態を見る限り、
株式の敵対的買収を行って
経営支配権を争うX社等の持株比率を低下させ、
現経営者を支持し事実上の影響力を及ぼしている
特定の株主であるA社による
Y社の経営支配権確保を主要な目的とするものであることは明白である。

☆ Y社の主張 ☆

本件新株予約権の発行目的は、
A社と共同で計画している
臨海副都心スタジオプロジェクトへの整備資金を調達することにある。

 ↓

この件に関しては、
当初Y社は保有するA社株式を
A社に売却することで調達を予定しており、
その後それでは資金不足の恐れがあることが判明したとの理由から、
本件新株予約権の発行に手取金
158億円でもって調達することに
計画を一部変更したことが認められる。

しかしながら、
本件新株予約権の発行及びその行使によって
Y社が調達する資金は上記金額をはるかに上回るものであり、
その後もA社は本件新株予約権の全部を取得しても
Y社の株式の過半数を取得する限りでしか
権利行使しないことを表明しているから、
資金調達目的と言うものが、
本件紛争になって言い出した口実である疑いが強い。

かえって、X社等による株式の敵対的買収対抗策として
A社のY社経営支配権の確保を
主要な目的としていることが認められる。

 以上によれば、
Y社取締役が
自己又は第三者の個人的利益を図るために
行ったものではないとはいえるものの、
会社の経営支配権に現に争いが生じている場面において、
株式の敵対的買収を行って経営支配権を争うX社等の持株比率を低下させ、
現経営者を支持し
事実上の影響力を及ぼしている特定の株主であるA社による
Y社の経営支配権を確保することを
主要な目的として行われたものであるから、
これを正当化する特段の事情が無い限り、
原則として著しく不公正な方法によるもので、
株主一般の利益を害するというべきである。

(本件新株予約権の発行を正当化する特段の事情について)

Y社は、X社がマネーゲーム本位でY社のラジオ放送事業を解体し、
資産を切り売りしようとしていると主張する。

 しかしながら、
X社がY社の事業や資産を食い物にするような目的で
株式の敵対的買収を行っていることを認めるに足りる確たる資料は無い。

 

(X社によるY社の経営支配における企業価値の毀損の恐れと
甲グループに属してY社を経営支配することの
企業価値との対比について)

この件については、
事業経営の当否の問題であり、
経営支配の変化した直後の短期的事情による判断評価のみで事足りず、
経済事情、社会的・文化的な国民意識の変化、
事業内容にかかわる
技術革新的の状況の発展などを見据えた
中期的展望の下に判断しなければならない場合が多く、
結局株主や株式取引市場の事業経営上の判断や
評価に委ねざるを得ない事柄である。

そうするとそれらの判断要素は、
事業経営の判断に関するものであるから、
経営判断の法理に鑑み、
司法手続きの中で裁判所が判断するのに適しないものであり、
上記のような事業経営判断に関わる要素を、
本件新株予約権の発行の適否の判断において
取り込むことは相当でない。」

 

(株式買収者の株式買収手段の証券取引法上の適否と
現経営者による対抗手段としての新株予約権発行との関係について)

「本件ToSTNeT取引は、
東京証券取引所が開設する、
証券取引法上の取引所有価証券市場における取引であるから、
取引所有価証券市場外
[11]における買付等には該当せず、
取引所有価証券市場外における買付等の規制である証券取引法27条の2
違反するとはいえない

ToSTNeTについては、
競争売買の市場ではないため、充分な情報開示がないまま、
会社の経営支配権の変動を伴うような
大量の株式取得がされるおそれがあることは否定できない。

これに対し、公開買付制度は、
支配権の変動を伴うような株式の大量取得について、
株主が充分に投資判断をなしうる情報開示を担保し、
会社の支配価値を平等分配に関係する機会を与えることを
制度的に保証するものである。

X社等は公開買付期間中に
本件
ToSTNeT取引によっ
て発行済み株式総数の約
30%にも上る
Y社の株式の買付を行ったことは、
それによって市場の一般投資家が会社の
支配価値の平等分配に関わる機会を失う結果となって、
相当でなく、
その程度の大規模の株式に買い付けるのであれば、
公開買付制度を利用すべきであったとの
批判もあり得るところである。

 しかし、前述の通り
証券取引法
27条の2に違反するものでないのであるから、
上記問題があるとしても、
これは、証券取引運営上の当不当の問題にとどまり、
証券取引法上の処分や措置をもって対処すべき事柄であって、
それ故に、
X社の本件株式の取得を無効視したり、
Y社に対抗的な新株予約権の発行を許容して
証券取引法の不当を是正すべく
制裁的処置をさせる機能を付与する根拠は無い。

 今回のX社の大量買付けは、
公開買付制度の趣旨・目的に照らし
相当性を欠くとみる余地はあるとの一事をもって、
主要な目的が経営支配権確保にある
本件新株予約権の発行を正当化する
特段の事情があるということはできない。

【検討】

一.本判決までの流れ

@     忠実屋・いなげや事件(東京地裁平成元年725日決定)→新株発行禁止

秀和が忠実や・いなげやの株式を大量に購入し3社合併を計った際、
忠実屋・いなげやが、互いに株を発行する等対抗。

これに対し、秀和が、
「本件新株発行が法令に違反しかつ著しく不公正であるもの」として、
新株発行禁止の仮処分を申請したもの

申請認容。
「株式会社においてその支配権につき争いがある場合に、
従来の株主の持株比率に重大な影響を及ぼすような数の新株が発行され、
それが第三者に割り当てられる場合、
その新株発行が特定の株主の持株比率を低下させ
現経営者の支配権を維持することを
主要な目的としてされたものであるときは、
その新株発行は不公正発行にあたるというべきであり、
また、
新株発行の主要な目的が右のところにあるとはいえない場合であっても、
その新株発行により
特定の株主の持株比率が著しく低下されることを認識しつつ
新株発行がされた場合は、
その新株発行を正当化させるだけの合理的な理由がない限り、
その新株発行もまた不公正発行にあたるというべきである」

 

A      イチヤ事件(高知地決平成1678日)→新株予約権認める。

業績悪化・無配状態が続いていたイチヤ鰍ェ、
取締役会にて新株予約権発行を決議。
株主Xは取得したもののその一部のみしか行使せず、
イチヤは資金繰りの調整から再三Xに行使を要求。

しかしXは応じず。

その後、イチヤは特定の第三者を割当先とした
第二回新株予約権発行及び株式移転を伴う完全親会社設立を決議。

XYに対し株主名簿閲覧請求をしたが、Y拒絶。
臨時株主総会が開催され第二回新株予約権発行に関する決議が行われた。

→資金調達目的が明らか

 

 

株主名簿閲覧請求拒絶については、
Yは完全に拒否していたわけではなく、
個人情報保護の観点からも即違法とまではいえない。

株主に対する利益誘導についても、
議決事項の賛否を求める等一方当事者の利益に偏るものではない。

   新株予約権の発行については、
@十億円単位の損失を計上していること。
A新株予約権の発行により資金を調達できないと資金繰りに破綻をきたす恐れがあること。
B調達した資金の使途も具体的に決定していること。
C本件新株予約権発行の決議に至るまで、積極的に
Xへの出資を求めていること、

等に照らし
本件新株予約権の発行には
資金調達が重要な位置を占めていると見ることができる。

また、
Yの既存株主は
全て同等に保有率を稀釈化されること、
X自身が参加した本件株主総会にて
特別決議が成立していること等からすれば、
会社の支配権確保を企図した行為である可能性を払拭できないとしても、
これを主たる目的としているとまでは認められず、
むしろ資金調達の目的が存在していると認めるに鑑み、
本件新株予約権の発行は著しく不公正な方法によるものとは言えない。

B      (東京高裁平成1684日)→新株発行認める

筆頭株主と経営陣との間で対立が生じた際に、
経営陣が業務提携目的で
大量の株式を第三者割当の方法により発行したもの。

本件は、支配権維持と資金調達の必要性を比較考量して、
前者の目的が優越するものではない、
つまり、資金調達の目的が優越するもの判断して、
当該発行の差止めを認めなかった


抗告棄却。

「現経営陣の一部が、X社(筆頭株主)の持株比率を低下させて、
自ら支配権を維持する意図を有していたとの疑いは
容易に否定することが出来ない。
・・・しかしながら・・・、
本件事業計画のために
本件新株発行による資金調達を実行する必要があり、
かつ、
競業他社その他当該業界の事情等に鑑みれば、
本件業務提携を必要とする経営判断として許されないものではなく、
本件事業計画自体にも合理性があると判断することが出来、
X社の指摘する各点及びX社の提出に係全資料を考慮しても
この判断を覆すには足りない。
・・・このように、
本件事業計画のために
本件新株発行による資金調達の必要性があり、
本件事業計画にも合理性が認められる本件においては、
仮に、本件新株発行に際し、
現経営陣の一部において、
X社の持株比率を低下させて、
もって自らの支配権を維持する意図を有していたとしても、また、
・・・各事実を考慮しても、
支配権の維持が本件新株発行の
唯一の動機であったとは認め難いうえ、
その意図するところが
会社の発展や業績の向上という正当な意図に優越するものであったとまでも
認めるには難しく、
結局、本件新株発行が商法
280条ノ10
所定の『著シク不公正ナル方法』による株式発行に当たるものということは出来ない。」

 

二.本判決の位置付け

(1)   企業支配権をめぐる争いがある局面(有事)における、
新株予約権の発行が不公正発行に該当するか否かが争点。(会社法
2472号)

(2)   それまでは、買収者の持株比率を希釈化する目的で利用されてきたのは、
新株の第三者割当だった(忠実屋・いなげや事件)。
特定の持株比率を低下させ現経営陣の支配権を維持することを
主要な目的としてなされた新株発行は、不公正発行であると判事した。

     →かかる主要目的が、新株予約権の発行にも適用されるか否か。

 

(3)   意義

@     支配権の争奪の争いがある場合における新株予約権発行には、
新株の第三者割当と同様に、
「主要目的ルール
[12]」の適用があることを明らかにした。

   →どの立場の主要目的ルールに立つのかの判断

A     「主要目的ルール」を「正しく」適用して買収者側の主張を認めた。

B     「株主全体の利益の保護」という観点から、
防衛策としての新株予約権発行が
正当化される4つの類型を提示している点。

   (4つの類型)※限定列挙ではなく、例示的列挙である

     @.買収者がグリーンメイラーである場合

     A.買収者が焦土経営を行う目的で株式買収を行っている場合

     B.経営支配権取得後に
会社資産を自己の債務の担保等として流用する予定で
株式買収を行っている場合

     C.会社経営を一時的に支配して会社事業と関係の無い
高額資産を売却処分等させ一時的に高配当等する目的で
株式買収を行っている場合        

 


         本決定によると、

株主全体の利益保護という観点から防衛措置としての新株予約権発行が

許される事由が存在するとの立証責任は会社側が負う。

     新株予約権の発行が、
「必要かつ相当」の範囲で行われていることを
会社側が疎明または証明しない限り差止めは認められる。

 

三.問題点

1.問題の所在

@     主要目的ルールの運用に関して。

   権限分配秩序論[13]と経営判断原則[14]適用説 

→ 本件は基本的に権限分配秩序論にたつ

A     例示的列挙がされているが、
その正当化理由について経済的合理性のある企業買収までもが、
これらに含まれることがないか。

   → Cの例示において
企業買収後に会社財産の一部を売却することは
対象会社の事業の効率化に資する場合もある

B     本件の場合は、
いわゆる「有事」における敵対的企業買収防衛策に該当するが、
「平時」における敵対的企業買収防衛策としての新株予約権発行は
いかなる条件化で許容されるべきであるか。

 

2.学説・判例の状況

@       主要目的ルールについて

     権限分配秩序論

   取締役を選ぶのは株主であるという株式会社の権限分配秩序を前提とすると、
会社の支配権をめぐる争いが存在する状況下で、
取締役がかかる争いに介入する目的で
特定の第三者に新株を発行することは、不公正発行に該当すると主張。

 

     経営判断原則適用説

   支配権争奪の争いがある場合でも、
取締役は経営判断によって支配権維持のための
第三者割当増資をなしうると主張した。

     → 自己の利益のために行動する危険が常に存在し、
かかる恣意的判断を行う可能性がある
取締役の裁量に対抗措置の是非を委ねることは妥当ではない、
という批判が向けられている。

A       平時における新株予約権発行について

   (判例)

       東京高裁・平成17615

※経営支配権に争いが生じる前の段階で、
将来の濫用的な敵対的企業買収にそなえて新株予約権を発行。
そのことについて、
株主が「著しく不公正な方法」であるとして差止め仮処分の申立を行ったもの。
→ 差止め認める(東京地裁H17.6.1)
→ 仮処分異議申立 
→ 原審仮処分決定を認可 
→ 抗告 
→ 抗告棄却

      「将来、敵対的買収者が出現し、
新株予約権が行使され新株が発行された場合には、
その取得する新株によって、
株価の値下がり等による不利益を回復できるという担保はあるものの、
既存株主としても、本件新株予約権の譲渡が禁止されているため、
敵対的買収者が出現して新株が発行されない限りは、
新株予約権を譲渡することによって、
株価低迷に対する損失を填補する手立てはないから、
既存株主が被る損害を否定することは出来ない。
・・・本件新株予約権の発行は、
既存株主に受忍させるべきでない損害が生ずる恐れがあるから、
著しく不公正な方法によるものというべきであり・・・」

         ↓

    (企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針)

       主として、平時導入型の防衛策も許容される条件について
指針を与えようとするものであり、実務に与える影響は大きい。

 

 

 

                                                                                                                                           

B       有事における新株予約権の発行について

 (判例)

       ブルドックソース事件 最2決平成1987

 外国籍である投資ファンドであるX(スティールパートナーズ)が
Y社(ブルドックソース)の全株を対象とする
敵対的な公開買付を実施したところ、
Y社が定時株主総会において定款変更を経た上で、
株主総会の特別決議により、
差別的な行使条件付の新株予約権無償割当を決議したので、
X側が新株予約権無償割当の差止仮処分を申し立てた。

本件の買収防衛策は、有事導入型ではあるが、
株主総会の特別決議に基づくという特徴がある。

差止め請求を排斥したので、さらに最高裁に抗告したが、
抗告棄却。

  ↓

本件新株予約権無償割当は、
株主総会においてX関係者以外のほとんどの株主が
Xによる経営支配権の取得がY社の企業価値を毀損し、
Y社の利益ひいては株主の共同の利益を害することになると判断して決議したもので、
X関係者は
本件新株予約権をその価値に見合う対価を得て取得されることになるから、
衡平の理念に反し、相当性を欠くものとは認められず、
株主平等原則の趣旨に反するものではないとすると共に、
不公正な方法によるものではないというものである。

 

3.検討

@       会社法の下での意義

 (会社法247条)

「・・・株主が不利益を受ける恐れがあるときは、
株主は株式会社に対し・・・新株予約権の発行をやめることを請求することができる。」

「当該新株予約権の発行が著しく不公正な方法により行われる場合」

   本件でも、そのほかの判例でも問題になっている文言であるが、

   「著しく不公正な」の定義があいまいである。

   敵対的企業買収であっても、
結果的に対象会社の事業の効率化に資する場合もあるのではないか。

   また、経営陣の恣意性に偏ることになるのではないか。

A       新株予約権について

(会社法107条・108条)

 敵対的企業買収に対する対抗策として用いうる手段が一段と多様化している。

     新株予約権の本来の目的。

     平時において、いかなる条件下で許容されるべきであるか。

     株価に影響を与えるのではないか。既存株主の利益を損なうのではないか。

 

  B 判例の傾向

   @.特定の持株比率を低下させ、
現経営陣の支配権を維持することを主要目的としてなされたものについては、
不公正発行とされている。

   A.資金調達理由に明確な理由が必要とされている。

   B.株主総会の決議を得ることの必要性(ブルドックソース事件)

 

4.私見 

  敵対的企業買収防衛策としての新株予約権の発行は、
株価を不安定にさせる要因になりうるのではなかろうか。

   株式会社は、そもそもに投資家からの投資によって成り立つものであり、
株価は、当該会社の価値を示す重要な役割を果たすものである。
それを、投資以外の目的で権利のみを発行することに疑問を感じる。

特に本件のように、
極端な新株予約権の発行も可能にしていると、株価操作の対象にもなりかねない。

    とはいえ、敵対的企業買収の対抗策、そしてストックオプションについては、
従業員の意識向上に役立つものでもあるのだから、
本判決において、
新株発行予約権の発行について例外的列挙を挙げている点は、
評価すべきであろう。
ただ、この決定が必ずしもどの事例にも当てはまるとはいえない。

    敵対的企業買収については、
今後も想定外の出来事が起こりうるであろうし、
また有時・平時における細やかな判断が要求されるべきであると考える。

   特に、焦土経営や、グリーンメイラー等想定される事象はさまざまあり、
敵対的企業買収に対する今後の法整備や事例研究などが必要であると考える。

 

 

以上

 

 

【参考文献】

 吉本 健一 著「レクチャー会社法」中央経済社

森 淳二郎・上村 達男 編「会社法における主要論点の評価」中央経済社

伊藤 真 著「会社法」弘文堂

高橋 裕次郎 編「新・初めて学ぶ会社法」三修社

中央出版編集部 会社法プロジェクト「新会社法のポイント」中経出版

 別冊ジュリスト「会社法判例百選」(2006,有斐閣)


[1] 別冊ジュリスト「会社法判例百選」(2006,有斐閣)

[2] 公開買付 

ある株式会社の経営権の取得などを目的に、株式 の買付けを希望する者が、「買付け期間・買取り株数・価格」を公表して(公告 て)、不特定多数の株主から株式市場外で株式等を買い集める制度である。

[3] ToSTNeT

立会外取引システム 東京証券取引所の売買立会時間外(午前820分から午前9時、午前11時から午後030分及び午後3時から午後430)において、電子取引ネット ワークシステムであるToSTNeTを介して行う売買制度のことをいう。大量購入が可能となっており、出来るだけ世界の基準に合わせようとしているものである

[4] シナジー効果 

企業間同士の活動による相乗効果。会社結合することにより、その企業価値が単に1+12になるのではなく、3にも4にもなる相乗効果のこと。

[5] 第三者割当 

会社 資金調達方法の一つであり、株主であるか否かを問わず、特定の第三者に新株を引き受ける権利を与えておこなう増資のことである。株式 引き受ける申し込みをした者に対しては、新株もしくは会社が処分する自己株式が割り当てられることとなる。

[6] 新株予約権 

会社に新株を発行させる、または会社の自己株式を移転させる権利。株式を特定の価格で購入できる権利。新株予約権は、従来の転換社債権、新株引受権、ストックオプションの総称です。これまでの新株引受権の制限を緩和してできた新しい用語で、2002年4月1日施行の商法改正で、新株予約権は単独で発行できるようになった。

[7] 敵対的買収者 

買収者が、買収対象会社の取締役会の同意を得ないで買収を仕掛けること。日本の金融商品取引法では、有価証券報告書を提出する義務のある会社の株式を市場外または市場内と市場外の組み 合わせ等による買付け等の結果、株券等所有割合が3分の1を超える場合には、原則、公開買付け(TOB)によらなければならず、買収者はTOBによって買収を仕掛けることが多いが、市場内での取得のみで総株主の議決権の過半数を取得するケースも見られる。

[8] 株式譲渡制限 

会社にとって好ましくない人が株主になることを避けることができる制度であり、内容は以下の通り。

@ 会社の承認が得られない人に株式を譲渡した場合に、会社はその人を株主と認めない。

A 会社が譲渡を承認しない場合には、譲渡希望者は会社または会社が指定する人に買取を請求することができる。

[9]  グリーンメイラー 

保有した株式の影響力をもとに、その発行会社や関係者に対して高値での引取りを要求する者。狙いを定めた企業の株式を多数保有したあと、その株式の議決権行使において、経営者に圧力をかけたり、その株式を経営者にとって好ましくない他者に転売することを提示することにより、企業を脅迫し、保有株式を高値で買い取らせて、大きな利益を得る方法である。

[10] 焦土経営

  敵対的買収対策の一つで、自社の買収価値を下げることによって買収者の買収意欲を削ぐもの。

[11] 取引所市場外取引 

証券取引所で売買されている証券を対象に市場外で、つまり当事者の直接交渉によって行われる売買のこと。「時間外取引」は証券取引所内での集中的売買が行 われる時間外というだけのことで、「市場」である取引所を通じての取引であることに変わりはないから、ここで言う市場外取引ではない。証券会社が相手方になる相対取引(市場を介さずに売買当事者間で売買方法、取引価格、取引量を決定して売買する取引のこと。)や、証券会社が同様の指示を行った顧客の注文と付け合わせによって成立させる。
1998
年の取引所集中義務の撤廃 を受けて、活発化している。
なお、証券取引所の電子取引システムを通して行われる立会外取引とは区別されることが多い。

[12] 主要目的ルール 

募集株式の発行(新株発行)や新株予約権の発行が、現経営陣の支配権維持など不当な目的を主たる動機とする場合には、著しく不公正な方法による募集株式の発行等に該当するとして、その差止めを認めるが、それ以外の場合には差止めを認めないという、会社法における考え方で、先進国が採用。支配権維持目的に株式を取得することは認められないというもの。従来の第三者割当に関する主要目的ルールは、資金需要があれば、差し止めを認めないという傾向にあり、忠実や・いなげや事件など資金調達の必要がなかったため認められなかった。

[13] 権限分配秩序論 

会社経営のあり方は株主が資本多数決により株主総会で取締役を選任することなどにより決められる→「取締役の権限の正当性は会社所有者たる株主の意志に基づく」

株主が経営の専門家である取締役を選任し、会社を解して経営を委託しているので、取締役の保身のために株主を選定することは許されない→「会社の執行機関にすぎない取締役が会社支配権の帰属を自ら決定することは許されない」

[14] 経営判断原則 

事実認識・意思決定過程に不注意がなければ、取締役は広い裁量の幅が認められるというもの。



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